部長として



結局逸らした話の事も何も言われずに私の居る部屋に着いた(ちなみに他の二人も何処かの部屋にお出かけ中
ここにたどり着くまでに蔵が頬ずりしてきたりして髪の毛が濡れていて冷たいと怒ったりしながらで大変だった


「くら、おすわり」

「俺犬やないで」

「っち」


蔵は普段猫っぽいけど犬っぽい所も結構な頻度で垣間見えるため上手くいくと思ったのだが…


「こら、女の子が舌打ちするもんやないで」

「はぁい、蔵先生…取りあえず乾かすから離れて」


そう言うと何時もごねる彼が素直に離れてくれたのですぐにドライヤーの準備をしてスイッチを入れる


「あー…緋蝶乾かし上手やなぁ」

「そうかな?」

「おん、めっちゃ眠くなる」

「ここで寝ないでね」


寝たら寝たで床に転がしておこう
…と思ったが起きた時隣にいたら怖いのでやっぱり寝られたら困る


「緋蝶、俺頑張ったよな」

「…うん、」

一瞬なんのことを言われたのか分からなかった、でもなんとなくわかってしまったのは彼が好きだからなのだろうか


「部長として、ちゃんと胸張れる試合やったよな」

「もちろん」

蔵の声がいつもより弱弱しくて、私の声も震えそうになる 
彼にとっては中学最後の全国大会だった、彼のテニス部にかける思いはだれよりも強かった 
悔しくないはずない、蔵は、悔しくて仕方ないんだ 

大会の後何も言わかったけど結構堪えてたみたい


「勝ちたかったなぁ」

「うん」

「めっちゃ悔しい」


その言葉が何よりも小さく、弱弱しくつぶやかれた言葉だった 
私は髪を乾かすのをやめて彼の髪をそっと撫ぜた


「立派な試合でしたよ部長」

「…ん」


そっと腰を引かれてそのまま抱きしめられた、まるで母のお腹の音を聞く子のようだった 

そのあとはひたすら無言だった


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