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「にゃおん」
「!」
私がのんびりと日向ぼっこをしていると、うちの愛猫のアクアちゃんの声がした。
と同時に誰かの息を飲む声も聞こえたんだけど……
「っちっちっち」
「に?」
そんな声が聞こえてきて笑いそうになってしまった。
誰かは知らないけど、アクアちゃんと戯れたいらしい。
窓を開けたソファから見える光景はアクアちゃんの後姿のみ。
塀のところで向こう側の人が必死になっているのを想像すると、やはり笑いそうになる。
けどそれと同時に顔も見えない相手に、お目が高いと言ってあげたくなった。
私は友達から呆れられるほどうちの子を溺愛してる節がある
だがあの可愛らしさを目にしたら、思わず構いたくなってしまうのが性だろう。だから顔も見えない相手に私は敬意を表するよ。
声からして男の人かな?
なんて思ってるとだんだん聞いたことがある声な気がしてきた。
「なーぉ」
「んー?」
チリンと鈴の鳴る音が聞こえてそちらを見る。
アクアちゃんがこっちを見て呼ぶようなしぐさをしているので、私は気だるい身を起して庭に置いてあるサンダルに足を引っ掛ける。
「どうしたのアクアちゃん」
「にゃあ」
「お前…!」
「え」
アクアちゃんを撫でると、すりすりと手に顔をこすりつけてきた。うん可愛い。
そして塀の外、壇になっているのだがそこからした声に下を見ると見たことのある鋭い目つきのバンダナくん。
「あれ、海堂くん?」
驚いて目を瞬かせていると、海堂くんは気になって仕方がないといった様子で尻尾をゆらゆらと揺らすアクアちゃんをみる。
「そいつは卯月の猫か」
「うん、アクアっていうの! 海堂くんお目が高いようちの子ホント可愛いから」
「お前、俺のことなんとも思わねぇのか?」
そこでようやく、彼が自分の猫好きという点にコンプレックスまではいかないけど隠しているのだと気付いた。
「猫好きに悪い人はいないよー可愛いから構いたくなる気持ちもわかるし」
「にゃーお」
「ほらアクアちゃんもそういってらっしゃる」
「変なやつ」
「よく言われる」
私がそう言って笑うと、彼は口癖だと思われるであろうふしゅーと呟いていた、息を吐いてるの方が表現が近いかな?
「海堂くんもアクアちゃんに触っていいよ?」
「いいのか?」
「うちの子じゃれるより甘えてくるから、撫でてあげた方が喜ぶの」
そう言うと暫く葛藤していた海堂くんが、誘惑に負けたように恐る恐るアクアちゃんを撫でる。
「にゃーぅ」
「ふふ、気持ちいってさ」
「……!」
なんだか感動しているように目を輝かせている。
海堂くんは表情こそあまり変わっていなかったが、嬉しいという気持ちが滲み出ているのがよくわかった。
「海堂くん、時々でいいからうちにきなよ」
「なっ」
「アクアちゃんと遊んであげてよ、この子あんまりお外でないからここら辺に来れば会えるよ」
「……わかった」
流石に猫の誘惑には勝てなかったらしい彼は、ランニングのついでにここを通るのが習慣になった……というのは明日からの話。
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