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「卯月、そんなに構えるなくていい」
「は、はい! って、え?」
当たり前のように言われたからつい返事をしてしまったけど、この人今私にとってとてつもなく重要な単語言わなかったか?
「なんだ、化粧如きで俺が気づかねぇとでも思ってたのか?」
ば、バレてるーっ!!!
私は今ほど叫びたいと思ったことはない。
「俺のインサイトの前ではその程度の嘘は通用しない」
嘘……というか化粧だけど。
私はバレてしまったショックにかなりテンションが下がっていて何も言えない。
「何で言わなかった」
「だって……お仕事だし公私混同しちゃダメかなって(とか言っとけばいいかな)」
「変に真面目なやつだな。まぁいい、わかっていて何も言わなかった俺が悪かったと言っておこう」
「え、いつから気づいてたんです?」
「最初からだ」
なんて意地の悪い人だ。
私がメイドとして二ヶ月間働いてたのに何も言わずにいたのか
「まぁお前は十分普通のメイドとして仕事に慣れてきてたようだし、そろそろ俺専属のメイドになっても問題ないだろう」
「専属!?」
普通にバレるよりもとんでもないことを言い始めた跡部くんに、開いた口が塞がらない。
「ああ、普通のメイドの仕事より楽だぜ?」
「何するんですか」
「簡単だ、俺の身の回りの世話や話し相手になるだけでいい」
何となく、彼の私生活に全力で関わることになるので気は乗らない。
だけど断ったら解雇とか言われても嫌だし渋々頷いた。
それを見て彼は満足そうに笑うとじゃあまず初めに、と言って私の腕を引いた。
「ひ、ぁ!?」
急に引っ張られ彼の上に倒れこみそうになるが、なんとか彼の頭の横に手をついてそれだけは阻止した。
のだがそれを許さないように腰を引かれて彼の膝の上に座る形になってしまった。
「跡部くん!?」
驚いて彼を見ると意地の悪い笑みをうかべていた。
「とあえず俺の話に付き合え」
「こ、この体制で?」
「当然だ」
なんてことをいうのだろう。
私はため息を吐きたくて仕方がなかったけど何とかこらえる。
どうしてこんなことをするのだろうか、この時の私が理解することは当然なかった。
この行動の意味を理解するのはあと一ヶ月ほど先の話。
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