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「おはようございますひな先輩!」


欠伸を噛み殺しながらタオルやドリンクの準備をしていたら、後ろから元気な声をかけられた。


「おはよう赤也くん、最近早いね」


朝日にも負けないくらい輝かしい笑顔を浮かべる赤也くんにつられる様にして、私も笑顔になる。

そんな赤也くんと言えば、遅刻の常習犯というくらいほぼ毎日遅刻していたのだ。
逆に普通に登校してくる方が驚くレベルで何かあったのかと心配されるくらいだった。

そんな彼が最近では当たり前のように早く登校し朝練も皆と一緒に始められる。これには私やテニス部の皆も驚きが隠せない。


「はい! これもひな先輩のおかげっす!」

「私は特に何もしてないよ」

「いえ、先輩がいるから俺早起き頑張ってるようなもんですから!」


え、何この子可愛い。
正直私懐かれるようなことしてないのだが……
何故こんなに懐かれているのかは謎だけど慕ってくれる後輩に私は悪い気はしない。
他の部員に挨拶をする彼の姿を見つめながらしみじみ思う。
暫くそうしていて、ようやく自分が呆けていたことに気付いた。


「―― じゃあ私スタートラインに行ってるからね」


他の部員に挨拶をする彼にそう言い、私はタオルやドリンクをもって歩き出す。
こういう時レギュラーとその他の部員が合同じゃなくて助かったと思う。
常勝と謳われるくらい立海大テニス部は凄い実績を残している。
つまり入部してくる子も沢山いるのだ。悲しいことに今マネージャーは私一人というシビアな状況なので、全員分一気にやれと言われると辛い。


「おはようひな」

「おはよう幸村くん」


加えて、部長の幸村くんが戻ってきたのはつい最近。
彼が戻ってきたことにより、真田くんを初めテニス部員全員の士気が高まってきてる、皆のコンディションは最高潮と言ってもいいだろう。


「今日も早く来ましたよ赤也くん」

「へぇ、あの赤也が」

「あいつもようやくレギュラーとしての自覚が出てきたのか……」

「弦一郎、それは違うと思うぞ」


真田くんが関心している中、彼に聞こえないように柳くんが呟いた言葉が聞こえてしまって思わず口元が引きつりそうになる。
確かに彼を見る限り、レギュラーとしての自覚があるかは果てしなく疑問だ。
しかし彼の実力は確かなものなので多くは語るまい。


「おはようございます!」

「おはよう、赤也」

「最近早いのはひなの為ってマジかよ」

「えっ」


少し離れたところでそんな会話が繰り広げられていたらしいが、私は露知らず。


「揃ったところで、そろそろ始めるよ」


部長の一言で皆が一斉に黙る。
鶴の一声ってこんな感じなんだろうな。
私は首から下げていたストップウォッチを握りしめて皆を見渡す。


「準備はいい?」


レギュラー一人一人の顔を見て確認する。
赤也くんと目が合った時、相変わらずきらきらした視線を向けられた、元気があってよろしい。


「じゃあいくよ。よーい、ドン!」


私の言葉を合図に、皆は一斉にすごいスピードで走っていった。
いつも思うけどよくあんなスピードで走れるものだ。

赤也くんあたりが無駄に気合いを入れて、一番に戻ってこようとするのが容易に想像できて笑みを一つ零した。


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