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「ひな」
「なに」
「俺の美技に酔いな!」
「はいはい、もう酔ってるから大丈夫だって」
「ひな!」
「……」
なんだろうか。
あの光景はもう見慣れたものだが、こうも彼女にデレる跡部を見るのは何故か妙な気分だ。
だけど付き合う前のあのじれったさったらなかった。
問題は全部、跡部の方にあったわけなんだけどね。
ひなちゃんは比較的に周りの子より冷めてるから、跡部の扱いもあしらってる感じで心配してたんだけど、何だかんだちゃんと好きみたいでよかった。
いつも通りでいいのに、妙に空回りしてた跡部。
告白した時に振られてたら面子立たなかったよね。
そう考えるとあんなに騒ぎ立てられてもしれっとスルー出来るひなちゃんは、相当な大物なのかもしれない。
かもじゃなくて、大物か。
「萩くん」
「なに、ひなちゃん」
「えっとね」
「おいひな、なんで俺を差し置いて滝と会話してやがる」
「当たり前じゃんマネージャーなんだから」
「なっ」
「ほら良いから、練習して!」
そう言って跡部を追っ払うひなちゃんは、俺にとってはある意味妹的存在。
テニス部のマネージャーに強制的に連れてこられた彼女は、嫌がりこそしてたけど誰よりもサポートに力が入ってた。
頼まれたら断れない性格だったみたいで、真剣に取り組んでる姿に他の部員も心打たれたのか彼女はすぐに皆と打ち解けた。
俺が本格的にサポートにまわってからは、後ろからついてくる雛鳥のようにそれはそれは可愛い妹分で。
そんな子が中学の時からの付き合いの跡部と付き合いだしちゃったんだから……何言っていいかわからないよね。
なんていうか、俺もまだ彼女が居ないのに娘を嫁に出す心境を先に味わってしまったかのような、そんな感じだ。
「ごめんねいつも」
「大丈夫、でも跡部の溺愛っぷりには今でも驚かさせられるよ」
「私何もしてないのに、どうしてああなっちゃったんだろう?」
真剣に考えるひなちゃん。
そこのところは、本人に聞かないとわからない。
跡部は語りたがらないので、いくら考えても答えは見えてこない訳だ。
取りあえず、この二人の事を俺はそっと見守っていたいな、なんて思う。
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