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廊下は走るな。そんな言葉をよく耳にする学生時代。

当然この年齢になってくると、呆れる者が大半だがそれ止まり。
しかし、態々声に出して注意する者だっている。
特に真田あたりは口うるさく言ってくることだろう。
だがしかし、ジャッカルにはその雷を覚悟の上で廊下を全力疾走する理由があった。


「ジャッカルウウウウウウ!」

「げっ、ひな」

「ジャッカルなんで逃げるの!!」

「当たり前だ! 毎朝抱き着いてくるのやめるなら止まってやる!」

「無理! 大人しく私の愛情を受け止めろ!」


そう、問題は後ろから迫ってくる少女にあった。
彼女はひな、ジャッカルと同じクラスでちょっとずれてるがとてもいい子だ。

それは彼にもわかっているのだが、何故か彼女はジャッカルにフォーリンラブしてしまったのだ。


「どうしてこんなことにっ……!」


走りながら、ジャッカルは数日前の事を思い出す。



 ――― 


『席替えか』

『折角ジャッカルと仲良くなれたのにね』


ひなはしょんぼりとしながらくじを引きにいった。

席替えで隣になったひなが「ジャッカルって名前最高に厨二でかっこいいね、羨ましい!」と言ったのが仲良くなるきっかけ。
ジャッカルには理解できなかったが、後でそれを聞いた丸井が爆笑していたのは彼の記憶に新しい。


『23、うーん微妙な位置』

『じゃあ俺も引いてくるぜ』

『いってらー』


軽い調子でそう言いながら手を振るひなを後に、教卓の上にあるくじを引く。
その紙には24とかかれており、黒板の数字と照らし合わせ、ジャッカルは思わず「マジか」と一言こぼす。

偶然にもまた彼女の隣になったジャッカルは、席に着くなりひなに隣だと告げた。


『え、隣って?』

『俺とお前だ』

『嘘、また隣になったの?』

『ああ』

『凄い! 偶然ってあるんだね!』



ひなが笑いながらそう言ったところまでは……そう、ここまでは普通でよかったのだ。

だがひなのファンタジー思考はどこまでも皆の斜め上をいっていたらしい、変な方向に辿り着いてしまったのだ。


『これはきっと天命! 私とジャッカルは運命の赤い糸で繋がれてるんだね!』

『は?』

『ジャッカル、やっぱり私達出会うべくして出会ったんだよ!』


こうして彼女の猛烈アタックが始まり、学校にいる間はほとんどと言っていい程ジャッカルにアタックしていた。
そして最近では、朝からの全力疾走が日課になっていた。
彼女も日に日に走ることに慣れてきたのか、ついてくる距離が長くなっている。


「待ってよー!! ジャッカル!」


どうでもいいが、手当たり次第に逃げて突き当たるまでついてこれるようになったらひなの話を少しは聞いてやろうか。
彼女との距離が離れすぎないように加減して走る俺は、どうやらかなり彼女の世界観に飲まれてきてるらしい。

ジャッカルはそんな事を考えながらも、後ろから聞こえてくる声に人知れず笑みをこぼした。

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