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「ひな、手当」

「亮ったらまた怪我したの……って! 血出過ぎ、早く座って!」


私は眉を潜めると亮も眉をひそめ「好きで怪我してるんじゃねえよ」と言う。
まぁそれはそうなのだが。
不貞腐れた子どものように私の座っていた前の席に座る彼を視界の端に捉えつつ、いつもの通り必要なものを棚から取り出してくる。

今日はどう転べばそうなるのかというくらい清々しい程に血が出てる。
いつもと同じ作業だが、早めに行うことにした。



「亮って部活以外でも結構怪我するよね」

「そうか?」

「うん、本人自覚なしなら頷けるわ」

「今馬鹿にしただろ」

「別にー」


馬鹿にすると言うよりは呆れていた。
こんなしょっちゅう怪我するなんてこっちの身にもなってほしい。
怪我した怪我したって、いつもいつも簡単な怪我の手当してるけど、急にいつもみたいなノリで凄い大怪我してきそうで。


「ほんと、気を付けてね?」

「わかってるよ」

「わかってない、あんまり心配かけないで」

「いでっ」


消毒を大目にかけたらよっぽどしみたのかこちらを睨んできた。


「ひな…今のわざとだろ」

「さぁ?」


ワザとらしいはぐらかし方に彼も今のはわざとだと確信したようで、何とも言えない表情になっていた。
だけど自分の事を大事にしない罰だと、強めに大き目の絆創膏を押さえつけるように張る。


「だからいてぇって!」


少し強めに怒られたけどふいっと顔を背けて知らんフリした。


「……ねぇ、亮」

「なんだよ」

「あんまり、頑張り過ぎないでね」

「! ああ」


わかってるけど、亮が怪我が多いのは人一倍頑張ってるからだって。
だけどそれで怪我してたら世話ないよ、自分を大事にできない人は成長できないから。
そう何度も言ってきたけど、彼の傷は消えかかった頃にまたできる。


「……気が」

「え?」

「気が抜けちまうのかもな、怪我してもひなが治してくれるって」


いつの間にか下げてしまっていた顔を上げて彼の顔を見る。
すると何処か照れくさそうな亮と目が合った。


「わかってんだけど、何処か安心しきってる自分も居てよ」

「それ、大丈夫なの?」

「流石にひなが心配するような大怪我はしないって」

「本当に? もっとしっかりしてよ?」

「ああ、お前が俺の事見てくれてれば大丈夫だろ」

「え」

「俺が気を緩ませないように、ちゃんと見とけよ」

「う、うん……?」


良くわからなかったけど、彼が怪我するのはよろしくない。
唐突にばってきされた監視役を頑張ろうと思う。



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