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「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ」
高校に入ってまず初めに思ったのは、バイトをしようということだった。
特にお金に困っていたわけではないが、周りの波に流されつつお金はあって損はないと思った結果自宅近くのファーストフード店でバイトを始めた。
「は、はい!」
元気良く返事をした目の前の子は年下の男の子。
この子はよく私のレジに並ぶことが多い。
がたいが良くてスポーツ刈り、爽やかさを醸し出す整った顔。
正にスポーツ選手の鏡と言わんばかり少年……いや、そろそろ青年かな。
彼が青春学園中東部の子、というのはテニス部のジャージから見て取れた。
これでも私もその名前に耐え抜いた元青学の生徒、彼は後輩なのだと思うと何故かよくしてあげたいと思う。
「いつものセットでよろしいですか?」
「ぁ、はい!」
「かしこまりました」
最近馴れてきたゼロ円スマイル。
私なんかの笑顔を振りまいても不快になるだけかもしれないが、仕事上笑ってないとご指摘を食らうので致し方ない。
「二番でお待ちの方」
「っはい!」
その返事は今までのものよりも大きく、周りのお客さんや店員さんがちらちらとそちらを見る程だ。
然しこんな状況に陥るのも最近では馴れ、いつも元気でよろしいと何故か微笑ましい気分になる。
「あの……」
「はい?」
初めて、彼が私に話しかけてきた。
何故か照れ臭そうにこれと差し出したセットを指さした。
「俺の注文、覚えてるんすか?」
「はい、大事な常連さんですから」
「!」
それに後輩だしと言う余計な一言は心の中に留めてい置いた。
「お、俺……」
顔を真っ赤にして何かを決意したようにこちらを見る彼……ん、なんか近くないか?
気づいたら両手をとられていた……いつの間に。
「俺、頑張ります!」
「え? あ、頑張ってください……?」
良くわからないが納得した様子で、トレイを持って開いている席へ歩いて行った。
「なん、だったの?」
良くわからないまま首をかしげてると、彼と同じジャージの方が。
「すみません、ウチの後輩が」
苦笑を浮かべて現れた彼は、どうやら先輩らしい。
薄いブラウンの髪は見るからにサラサラで、女子として羨ましくなる程だ。
「いいえ、私も青学卒業生だから勝手に可愛い後輩だって思ってますよ」
やっぱり余計な事を言う私の口、この悪い癖直したいな。
「そうだったんですか?」
「ええ、あの位の子は元気がいい位が丁度いいですよ……あ、すみませんご注文も聞かずに!」
「いえ、こちらから話を振ってしまって」
お互いにペコペコしながらも注文を聞いていく、やはり彼よりは少な目の無難な注文だ。
「今後も、彼の事をよろしくお願いします」
「はい?」
先輩な彼は謎の一言を残し彼の元へ歩いて行った……なんなのだろう。
私の疑問は数日後に私の思いもしない形で解消される事となる。
その日以来私には二歳下の彼氏が出来るのだが、今はまだ私は何も知らない。
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