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「ひなー!」
ハートが付きそうなくらい明るく元気な声で私を呼ぶ声が聞こえて、内心またかとこぼしつつ振り返る。
案の定遠くに居てもわかるくらいの鮮やかなオレンジを靡かせる彼に、私は早々に口を開いた。
「却下」
「え!? 俺まだ何も言ってないよ!」
「キヨが私にお願いなんてデートのお誘いでしょ」
「違うかもしれないじゃないか」
「じゃあ何の用?」
「俺とデートして!」
「……」
このオレンジは私を怒らせたいらしい。
笑顔で拳を作ってみせると、凄い勢いで謝ってくるので逆に怒る気が失せるというかなんというか。
取りあえずこの目の前のオレンジこと千石清純ことキヨ……なんだかややこしい。
彼は、ほぼ毎日顔を合わせる度にデートに誘ってくるのだ。プレイボーイにもほどがある。
「他の子誘いなさい」
「えー」
「他にかわいい子なんていくらでもいるでしょ?」
「いや、そうなんだけどさ」
やっぱり殴っていいかな。
そう思ったのは、私的に認めたくない感情があるからなのか…正直自分が良くわからない。
だがムカつくものはムカツクので、つい口調が冷たくなってしまう。
「じゃあなんで私の所くるの?」
それは凄く気になる事だが、逆に聞きたくない事でもある。
返答によっては私は彼との縁を切ってもいいくらいだ。
と言う仮想しないと、自分の中での何かが崩れそうだった。
「それはもちろんひなとデートしたいから」
「だから、他の子でも」
「他の女の子とひなは違うの!」
「え?」
彼の叫びに驚いてポカンとしていると、キヨは恥ずかしそうに頬を掻く。
「ひなとデート出来なきゃ俺的に嫌っていうか、あーもう直球に言う! ひな!」
「な、なに」
「俺と付き合ってください!」
「……は?」
吹っ切れた様に言う彼の言葉が信じられずに、相変わらず呆けていると、キヨが凹んでいじけはじめる。
「俺が一世一代の告白をしたのに、冷たいよひな……」
「だ、だって」
困る。
今まで色んな女の子に誑し込んでたくせに、急にそんなこと言われるなんて思ってないじゃん。
「キヨは女の子皆平等って感じだったから」
「ひなは別」
「……」
「信じてよ」
ぎゅーっと抱きしめられて私は身を硬直させた。
初めて触れた彼の体温に、自然と頬が熱くなる。
「俺他の女の子にはこういうことしないから」
「……知ってる」
知ってる、認めたくないけど。
彼が他の子にどんなふうに接しているかなんて、嫌と言う程見ている。
「他の子にナンパしないこと」
「え」
「他の子にうつつ抜かしてたらすぐ別れてやる」
「!! うん! ひな大好きだ!」
大げさに喜ぶ彼に耳元で騒ぐなと言ってやりたいが、生憎私も今気分がいい。
今日くらいは目を瞑ってやるかとこみ上げてきた笑いを隠す様に顔を伏せた。
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