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「いーやーやー!」


そんな喚き声が聞こえてきて思わず苦笑しつつ、私は男子テニス部のコートに向かう。


「アカンで金ちゃん」

「いややー! たこ焼きがええ!」


ああ、またやっとる。
なんて呆れると同時に笑みが浮かんでしまう私は、相当なブラコンなのだろうか。

案の定、駄々をこねる金ちゃんとしょうがないなと言った苦笑を浮かべた白石くんがいた。
でもしゃあない、と言った様子の彼を見て思わず頷いてしまう。
客観的に見たら、私もあんな表情をしてる事だろう。


「金ちゃん、皆を困らせたらアカンよ」


私が声をかけたことで、ようやく私が来たことに気づいたのか金ちゃんは思い切り振り返った。


「ひな姉!」

「ほら、たこ焼きは家で作ったるさかい」

「ほんま!?」


急に元気になる金ちゃんの頭を撫でてあげると、自然と緩む表情。
私が撫でてあげてるのに、金ちゃんの表情を見ていると私が撫でられてような気持ちになる。


「お姉ちゃんが金ちゃんに嘘ついたこと、今まであらへんやろ?」

「おん! ひな姉おおきに!」


キラキラとフィルターがかかって余計に可愛く見える私の目は、本当にどうにかしてしまっているのかもしれない。
でも、このキラキラフィルターがかかっていなくても金ちゃんのエンジェルスマイルは中々の破壊力だと思う。

これは姉としての贔屓ではなく純粋に思うわけだ……そこの所は友達にも聞いて確認済みだし。


「ひな、おおきにな」

「ええって、弟の世話は姉の役目やで」

「まーそうでなくとも、ひなはブラコンやからな」

「言い返す必要もあらへんわ」


ブラコンなのは自他ともに認める程重症。
守りたい、この笑顔。
そんなキャッチフレーズを使えそうなくらい眩しい笑顔を浮かべる純粋な弟が居たら、誰でもブラコンになると思う。


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