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俺は一年位通い続けて最早常連になっとる店がある。
最近も休日によう行くんやけど、そこに通う理由は二つ。
一つは白玉善哉がそこらの店よりうまいから。

もう一つは……


「いらっしゃいませ……あ、財前くん!」


俺を見つけるなり、犬が尻尾を振って駆け寄ってくるかのように嬉しそうに笑うこいつが居るから。


「っす」

「こちらにどうぞ、いつものでいいよね?」

「おん」

「かしこまりました」


ニッコリ笑って元気よく、注文を届けに行く彼女の名はひな。

この名前を聞くまでで、まず数ヶ月かかった。
何度か通ううちにいつもおるひなの事が気になったが、きっかけがなかった。


「どうぞ、白玉善哉です」

「ども」

「いえいえ」


彼女の笑顔が、俺に向けるものと周りに向けるものと若干違うことに気づいたのは最近。
あれやな、警戒心が解けてきたっちゅー感じや。

さてここで話を戻すと、ひなの方がきっかけとなる一言を発した。


『あの……貴方、頻繁に通ってくださってる方ですよね?』


それが始まりやった。
ひなはその日以来俺を気にかけては嬉しそうに笑うもんやから、こっちも意外とすんなり話すことができるようなったっちゅー感じ。
客の出入りが少ない時は、目を盗んで話しかけてくるんや。まぁバレて怒られるんやけどな。

そんなことを思ったら、なんとなく表情が崩れそうになっとった。
しまった、思い出し笑いしてるやつやと思われるところやで、部長やあるまいし。

そう思ったところでふと視線を感じてそちらを見やると、今まで考えていた人物であるひながこちらを見ていた。
目があったことで少し驚いていたがすぐいつものようにふわりと笑った。
なんや気が抜けるけど結構好きな笑い方。

客の会計かなんかですぐよばれてしもうたけど。
あー、もっとちゃんと話したい。いうても学校ちゃうからなぁ。

そう考えつつも俺も会計に並ぶと、ひなは笑っていつもと同じ金額を口にする。


「なぁ」

「なに?」

「今日の上がり、何時?」

「ぇ? 5時だよ?」

「ん、じゃあその頃合い又来るわ」

「え? ちょっと……!」


戸惑ったような、でも少し頬を染めたひな。
少しは脈ありっちゅーことでええんやろか?
とりあえず、このくらい強行突破せな次には進めんやろ。


いまんとこの最終目標は、付き合うところまでやな。


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