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「いらっしゃいませー」
私がこの茶屋で働き始めて、もうすぐ一年が経とうとしている。
初めは「茶屋でバイトとか洒落乙じゃね?」と一人で盛り上がって乗り込んだ。
今では和菓子やらお茶やらに囲まれた、至極穏やかな日々を送れている。
お客さんを席に通し一礼したところで、また新たなお客さんが入ってきた。
「いらっしゃいませ……あ、財前くん!」
「っす」
「こちらにどうぞ、いつものでいいよね?」
「おん」
「かしこまりました」
いつも通りな彼に、思わず表情が綻んでしまう。
職業柄営業スマイルと言うものをしなければならないが、彼には自然と笑いかけることができる。
それもそのはず。彼は常連さんで、更には同じものしか頼まないのだ。
そんな彼は、一体なにを頼んでいるのかと言うと……
「どうぞ、白玉善哉です」
男の人って、一人でこういうところくるのは抵抗有るんじゃないかなとか思っていたのだが、彼は違うらしい。
しかも白玉善哉が好きだなんて、可愛いところがあると思う。
甘いものが好みの人、良いと思うよ。
前少しだけ話す機会があった時に同じ年だと判明したのも、気を許すのには十分な要素なのかも。
そんなことを考えながら、他の人の所に餡蜜やら団子やらを運んでいく。作業しながらの考えごともだいぶ慣れたものだ。
ふと手持無沙汰になった時何気なく財前くんの方を見る。
いつも通り無表情……でもない、心なしか幸せそうな表情!
きっとあれだ、内心では美味しいと叫べるレベルだけど皆の手前無理だ。キャラ的にも、とか考えてるよ絶対!
そう勝手に解釈したと同時に目がバッチリあってしまって、なんだか申し訳なくなった。
笑って誤魔化したタイミングでお会計と、お客さんに呼ばれた。
なんていいタイミングで話しかけてくれたんだろう、本当にありがとう名も知らぬお客さん!
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