財前くんと初々しいカップル

朝、深呼吸をしてゆっくりと玄関のドアを開ける。
数日前と違う光景はこれから先馴染みあるものになるのだろう


「…はよ」

「おはよ…財前くん」


元々クールな彼は口数が多い方ではなく、私は話す方だが異性とはほとんど話したことがなくてどもってしまう
そんな私たちが付き合い始めたものだからこういった時次にどう切り出せばいいのかわからない


「…」


本当は朝迎えに来てくれてありがとうとか、家も近いし一緒に学校に行きたいからって態々面倒な徒歩に変えてくれたことだとか
毎朝言っても足りない位の感謝があるのにどうしても言葉にすることができない
ありがとう、この五文字がこんな大事な時に出ない

どうしようかと思っていた時、そっと左手にぬくもりを感じて私の体がビクリと跳ねた
驚いて私の手と彼の顔を見比べる、しっかりと恋人繋ぎで繋がれてる手は低体温のせいもあって少し冷たい
無表情ではあるが少し耳の赤い彼は案外恥ずかしがり屋なのかもしれない 
思わず凝視していると流石に気づいたのか彼がこちらを向いた


「何」

「ぁ、いや…その…手」


どもった末に手、と言う一文字しか言えなかったのが凄く悲しい
いつも友達にはおしゃべりなのに
こういう時にどうしてこうも口数が減ってしまうのだろう

…どうしよう、勘違いされたりしてないかな?

心配になって再度彼の顔を見上げるとまた目があった
今度はふっと笑われたのが不意打ちで、それだけで私は心拍数があがった


「顔真っ赤」

「へ、っ!?」


余ってい居る方の手で頬を覆うが隠しきれていないのは当たり前の事
指摘されたことが恥ずかしくて先ほどの心配も他所に視線を下の方へ彷徨わせる


「…ありがとう」

「はい!」

「っぷ、いい返事すぎ」

「ぅ…」


重ね重ね恥ずかしすぎる、自分しっかりしてと心の中で嘆いた


「無理に頑張らんでええよ」

「ぇ?」

「ありがとうのペースでなれてけばええ」

「!」


驚いて立ち止ると財前くんもすぐに立ち止ってくれた


「ありがとう、俺ちゃんとわかっとるつもりやから」

「財前くん…」


思わず見つめているとふいっと恥ずかしそうに視線を逸らして繋いだ手を引かれた


「部活、遅れたら部長うっさいからいくで」

「うん」

「「…」」


少しだけ、前に進めたような気がするけど…
私達が普通に会話をするまでの道のりはまだまだ長いようです


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