呼ばれないはずの名前
「柳生、最近元気ないナリ」
「そんな事…ないですよ?」
「嘘じゃ、空回りちょる」
この男は、どうして些細な変化に敏感になるのだろうか
私は彼のこう言うところが苦手だ
本当の私が彼に疲れたと、助けてと声を上げてしまいそうになるから
私は自分を出してはいけないのだ、一人の時ですら
…本当なら気を抜くことも駄目だと思っている
「…なんのことかさっぱりです」
でも彼から離れられないのは彼の傍にいる事がとても落ち着くからだろう
けど落ちつきすぎて素の私が出てしまいそうになる、そこだけは気を張ってよう注意しなければ
「仁王くん、そろそろ帰りましょう」
話しを逸らすと彼は大概諦めてくれる
だから今回も何時もの様に、何時もの様に帰るはずだった
「奈々緒」
「は…?」
ふと呟かれた言葉に思わず声が洩れた
普段は「柳生」と呼んでくる彼が私を名前で呼ぶことは無いはずなのだ
だって、私は名前で呼ばないことを前提に付き合いを始めたのだから
「奈々緒」
「どうしたんですか仁王く…」
「終いじゃ奈々緒、いい加減あきらめんしゃい」
「……」
その言葉に私は少し後ずさった、
ここまで頑張ってきたもの全てが壊されてしまいそうで
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