「私」を見ないで
「やーぎゅ」
「仁王くん、どうかしました?」
ぐったりとした様子で後ろから抱き締めて首筋に顔を埋める仁王
何時もの事なので慣れたように苦笑しながら彼の髪を撫でる奈々緒
「柳生不足なり…」
「そうですか」
「やぎゅーは冷たいのぅ」
「仁王くんが私の分も甘えてくれるので…」
これでも結構寂しかったんですよ
頬染めながら小さく呟いた言葉は周りにこそ聞こえなかったが
くっ付いていた仁王には聞こえていたようで
「やぎゅー何時になく素直じゃのう」
「偶にはデレないと仁王くんが拗ねるでしょう?」
「やぎゅーはツンデレか」
違うの、違うんだよ仁王
本当のは私は誰も知らない。
これは作られた私、彼の場所を奪ってしまった私の罪滅ぼし
彼になりきって、彼の様な人生を送って彼が出来なかった事をする
だから私の発言は全てうそで塗り固められたものでしかない気がしていた
でも、仁王に会ってから少しずつ嘘が剥がされている
彼は気付いている、私の本性に
だから私はぎりぎりの所までしか踏み込ませない
やめて、見ないで、『私』を見ないであなたが見ているのは『柳生』なんだから
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