放置部屋 | ナノ


自覚済み



「ええやん何処に座ったって」
「まぁ、うん…寧ろ隣嫌なら蹴落としてもいいから」
「なんやねんそれ」

彼女の中での俺が優遇され過ぎとってようわからん 
そう思っていると彼女は思い出したように口を開く

「あ、テニス関係とか財前くんのことは聞かないでおくね、あんまり君の事知り過ぎると帰りたくなくなるから」

少し寂しげにそう言った彼女の言葉が良く分からんかった
…つまりは俺の事知り過ぎると愛着みたいなもんが湧いて日常でも寂しいとか思うっちゅー事か?

「…またここで会えばええやろ」

何故かそんな言葉が勝手に口から出て
ハッとして彼女を見ると驚いたようにこっちを見て…そして嬉しそうに笑った 

不覚にも、その笑顔がかわええと思った

「あーあ、どうせ夢で会えるなら財前くんがテニスしてる所みたいのになぁ…」
「なんでやねん」
「だってそうしたらもう悔いないし、君と夢通じて話せてること自体奇跡だろうし」

彼女は完璧に俺を漫画の中の登場人物本人だと認識しているようだった
それと同時に俺はその程度の認識しかされてへんのかと思うと少し胸が苦しくなった、なんやろこれ

「…じゃあ冬白先輩の前ではテニスはせぇへん」
「えー…というか私の事は名前でいいよ敬語も使ってない癖にー」

なんとなく適当に返されたその言い方に少し笑いが込み上げつつも俺は言う

「じゃあ奈々緒さん、俺はアンタの前じゃ絶対テニスせぇへんわ」
「だからなんでよ」

絶対カッコいいのにと呟く奈々緒さんに俺は笑う、なんやろうさっきまで苦し思っとったのにもう苦しないわ

「やってテニスせぇへんのならまた会うてくれんねやろ?」
「へ…ぁ、えっとまって」

少し頬を染めた奈々緒さんは気恥かしそうに両手で頬を隠して視線を逸らした…え、なんやこの反応

「財前くん、そういうのは彼女とかに言おうね!」

と言うが全く視線を合わせない彼女…結構初?
そう思って顔を覗き込むと比にならない位顔が真っ赤になりおった

「ちょ、顔見ないで!」

そう言って手で顔を覆った彼女によく分からない感情が込み上げてくる
多分かわええとか言うよりもときめいたとか抱きしめたい衝動とかそんな言葉が当てはまると思う

「奈々緒さん…俺なんやかんやでまた会いたいんやけど」
「…私も」

小さく呟いた彼女の言葉に俺は思わず彼女の頭を撫でた 
すると手は放したが俯いた為顔が見えない

「奈々緒さん?」
「ん、もう我儘とか言わないからもうちょっとお願い」

なんの我儘やねん、この人の思考回路ホントようわからん
そう思いながらも若干震えた彼女の声にときめいてしまった俺は頭を撫で続けるわけだが、不意に明るくなって来とることに気づく

「目が醒めるまでこのまま…は駄目かな?」
「ええよ…俺もこのままがええし」
「…ありがと」

隣に座る俺のウェアをバレテへんと思っとるのかさり気なくつまむ奈々緒さん…ヤバいかわええ
この人はほんまに俺のツボにはまるようなことばかりしおる

俺こそ最近の思考回路が可笑しい
でも俺はこの人が好きや、夢やろうが次元が違かろうが関係あらへん
俺達は確かにこの空間でお互いを認識しているのだから


やから、また会う時にはいつもの笑顔を見せてや、奈々緒さん


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