「それだけ…それだけだったんだよ明日ちゃん」

「…みお、私」

「何も言わないで、過去が酷いからっていつでも優先されたいわけじゃない」

「…」

「私が、明日ちゃんに頼りっきりで前に進みたくなかっただけだよ」

子どもは何時か大人になる時が来る、時間の流れには逆らえなくて嫌でも大人にならなければならない 
私もいつまでも引き摺っていてはいけないことはわかっていた

でも明日ちゃんの隣があまりにも居心地がよくて…踏み出すことでこれ以上の温かさを知ることすら怖くなっていた


「だから笠間さん…恨んでいいんだよ、ホント」

自嘲の笑みを見せると彼女は私を見て泣き出した、そのことに驚いていると思い切り抱き着いてきた

「辛かったよね、苦しかったよね」

「!」

「何も知らないで勝手に村井さんの傷を抉っちゃってごめんなさい」

「っ…」

「私は明日ちゃんと仲良くできて嬉しかったけどそのせいで村井さんが苦しんでるのに気づいてあげられなかった」

「…私たち今日が初対面なのに気付いた方が凄いよ」

「それでも、ごめんなさい」


この子は、一体なんなんだろう 

どうしてこちらの棘のある言葉をこんなにも優しく包み込めるのだろう 
――ううん、私はこの温かさをもう知ってる 

いつも辛い時傍にいてくれた明日ちゃんと同じ暖かさだ


「今度は、村井さんも一緒に仲良くしよう?」

「…私は、人が怖い」

「うん」

「簡単には、信用できないしすぐ疑ったりするよ」

「うん」

「きっと、私は笠間さんの事を傷つけちゃうよ?」

「うん、いいよ」


鼻がツンとした、悲しくもないのに自然に涙が出た 
悲しいこと以外で涙を流したことなんていつ以来だろう 
一度出た涙はどこから出てきたのかと思うくらい沢山溢れてきた


「怖いかもしれないけど、一緒に痛いのも辛いのも乗り越えようよ…もう友達でしょ?」

「笠間さん…」

「こない辛いことよう話してくれたな、おおきに」

「俺らで力になれるならいくらでも助けたるで」

「白石くん、忍足くん…」

「みお、貴女にはもう見えてるでしょ?私以外にもこんなに頼れる人がいるのが」

「…多すぎて、困っちゃうかも」


この時私は、初めて明日ちゃん以外の人の前で笑えた気がした


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