財前くんにはストーカーされてもいい
「っ…」
最近、バイト帰りに後ろから足音が聞こえる
私はバイト先から家までが徒歩10分程度で毎回歩いて通っている
今日も例外なく徒歩でバイトへ向かい、今はその帰りだ。
足音が聞こえだしたのは最近で、怖くなった私は自転車で通うようにしようと思ったのだが
このタイミングで自転車が故障するという…若干泣きたくなった
――コツコツ
―コツコツ
―――ピタ
――ピタ
もうどうにかしてほしい、少しの苛立ちと、それをはるかに上回る恐怖や不安でいっぱいになる
どうしたものかと思っていると急に後ろの足音が走り出したかのように忙しなく聞こえたかと思うと腕をつかまれた
「きゃ!?」
「捕まえた、俺のぜんざい」
「ひっだ、誰…!?」
見知らぬ男にそのまま両肩をつかまれる
「酷いな、ぜんざい。あんなに愛し合ったのに」
意味不明の言葉をつらつらと語るその人は全く見知らぬ男であることに変わりはない
怖い、怖い!ひたすらに恐怖でいっぱいでどう対処すればいいのかもわからない 誰か助けてとくるはずもない助けを願う
するとぐいっと別の誰かに後ろにひかれふわっと抱きしめられた
「あんた、俺のぜんざいになにしとんねん」
「ざ、財前く…っ」
この状況下で現れたのは同じクラスの財前くんだった
「な…お前こそなんだ!ぜんざいは俺のだ!」
「っは、怖がられとる癖によう言うわ、接点も無いくせに驕るのも大概にしぃや」
「っ…!」
彼がそういうと見知らぬ男は悔しそうに駈け出して行った…あの人は俗にいうストーカーというやつだったのだろうか
ストーカー男がいなくなったのを確認すると財前くんがそっと私を放してくれた
「ありがと、財前くん…」
「アホ、こないな時間に歩いとったら危ないやろ」
「ごめんなさい…」
シュンとすると彼は次から気をつけろと言った。
そこまでは、よかったのだ
「ったく…俺以外の男にも目つけられとるとか無いわ」
「…え?」
「俺あいつよりぜんざいの事よくわかっとる自信あるし」
「ざ、財前くん?」
彼まで意味不明なことを言い出して思わずたじろぐ
そもそも彼は
私の名前を、呼び捨てで呼んでいた…?
「ぜんざい…今日は三十分も遅なって…あんま残業せんほうがええで」
「なんで、そんなこと…」
「やから、俺は誰よりも奈々緒の事しっとんねん…あぁ、昨日は夜寝るのやけに遅かったやん」
「!!!」
怖い、先ほどまでストーカー男に感じていたその感情が彼に対して湧き出した
「今日ははよねないと体に悪いで、後作るのはめんどうやろうけどカップ麺ですます日多くなっとるのもアカンで」
私、財前くんにそんな私生活の話したことない。呆気にとられていると優しく抱きしめられる
ストーカー男が無理やり肩をつかんできたよりも数倍も優しい扱いだったのに
先ほどよりも恐怖と…何か別のものを感じたのはなぜだろう
「ぜんざいは、俺のやろ?」
言葉が出なかった
ただ、これからは彼との縁が切れない気しかしなくて眩暈がした
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