いっそのこと彼のピアスになりたい
私は最近開けたピアスの事で悩んでいる…正直初めてあけたのでどういった手入れをするべきなのかなど全くわからない
そんなことを思いながら私は小さくため息をついた、読んでいた本を閉じると窓の外に目をやる
下ではテニスコートでテニス部の皆が勤しんでいる、青春だなーなんて他人事に思いながらちらりと目に入った黒髪に目が行った
そういえば光はピアスいっぱい空けてるよね、光に聞けば良いじゃんか…今更気づいてなんだか情けなくなる
「光」
なんとなく呟いただけなので特に反応は求めてない、というよりいくら窓が開いているからといって二階で呟いた言葉が聞こえるわけはない
「ぇ」
そう思ったのに彼は呟いた言葉に反応したかのようにこちらを見上げてきた
驚いて私が慌てていると光がふっと笑った、きっと私の慌てっぷりがその距離でもわかったのだろう
どうしようかと私が慌てふためいていると光が先輩に何かを言われていた、もしかして私のせいで怒られた…とかないよね?
そんなことまでわかったのかは知らないけど彼はもう一度こちらを向いて小さく手を振ってきた
普段そう言うことをしない彼の対応に驚きつつも振られたのできちんと手を振り返す
私が手を振ったのを確認すると彼は何事もなかったかのように部活に戻った
「…ちょっと寝よう」
暫くは彼の一連の動作を見ていたのだがどうも時間帯的に眠くなって机に突っ伏す、意外にもすぐ眠りにつけそうだった ―――
「…ぜんざい、起きやぜんざい」
「ん…」
光の声が聞こえて渋々体を起こすと若干呆れたような表情の光、外は真っ暗だしいつの間にか窓も閉まっていて電気もついてる
「ぜんざい、はよ帰るで」
「う、うん」
当たり前のようにちょっとだけ乱れた髪を手櫛で整えてくれた、そういうさり気なさにやられてたりする
ふと彼が私の左耳付近を掠った時の違和感を感じて思わず左耳に触れた
「え、あれ?」
ピアス、違うのになってる
驚いてると光が小さく笑ったことに気づいた
「ぜんざいにしてはすぐ気づいたやん」
「私にしては…って酷い」
私がむすっとしたが彼は相変わらずの笑みを浮かべたまま
「ま、お揃いってことで」
「え…え!?」
お揃い…この状況でのお揃いってピアスしかないことに気づいてすぐさま鏡を取り出した
耳を見るといつも彼の左耳にある赤いピアスと同じピアスがついていた
「ぜんざい、置いてくで」
「え、ちょっと!」
いつの間にやら移動していた彼の後を急いで追いかける、ちゃんと電気を消すことも忘れないで
「ま、開けた記念」
ちょっと照れくさそうに言った彼に今までになくときめいた
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