財前光と365days | ナノ

きっとこんな私を知られたくないからなんでしょうね



「ぜんざいさん」

私の名前を呼んだ彼の表情を見て私は笑った、といっても泣きそうになってるけど

「…気持ちは、嬉しいの」
「…」
「でもね、私はあの人が好きだから…」
「ぜんざいさんが、こない傷ついてるのに放っておく人でも?」

私はその言葉に困った顔をしたが口を開くことはしなかった

「俺じゃ、駄目なんですか…?」
「…光くんには、もっといい人がいる」

こんなに優しい人が私なんかの事を好きじゃ駄目だ 
もっと普通の恋愛をして、普通に幸せになってほしい

どんなに浮気されても、はぐらかされても別れないでいる
信じ続ける不安なんて彼は体験する必要もないし関わる必要もない

私も遊ばれてるって気づいてるけど、別れられないのはあんな人をまだ好きでいるからなんだよ


「正直、悔しいです」
「…え?」

光くんは震える声で呟いた 
その声はどこまでも優しくて…寂しい声だった

「浮気してるような、遊んでるような奴に負けてるなんて」
「そういう意味じゃ…」
「わかっとりますよ、ぜんざいさんが一図でいい人過ぎること」

違うよ、君が優しいんだよ

「私は全然いい人なんかじゃない」

私は堪えていた涙がとうとう溢れてしまった 
一度出ると止まることを知らないそれが

「一図なわけでもない…ただ怖くて現実から目を背けてる癖にあの人に縋ってるだけ…」

前に進むことが怖いだけの臆病者だ

「正直、引き留めることで精一杯で今でも本当に心から好きかどうかもよくわかってない」

この気持ちはきっと依存
何処でそうなってしまったのかもわからない 
でもきっと私は彼にその依存に近い気持ちを感じている

「ぜんざいさん」

もう一度、今度は強く呼ばれた 
顔を上げようとするとそっと腕を引いて抱きしめられた事によって出来なくなった
驚いたけど抵抗する気は起きなくて、声を上げる気も起きなかった。

「俺を好きにならんでもええ…だから、頼んます、泣かないでください」

分かってしまった、彼に依存してるわけじゃない


この状況に依存してるだけだって

私は光くんが好きだから、この状況を使って振り向いてもらってるだけで 
でも付き合ったら別れる不安で押しつぶされるから…だから…

「私、最低だね…」

この言葉の意味を分かるのは、私だけ…だからこそ

「光くん、あなたは幸せになるべきだよ…もっといい人と」

お願い、親密な関係になる前に、あなたから身を引いてほしい
私はもう、この関係を引っ掻き回すことしかできないだろうから…


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