丸井と彼女と元彼2





「付き合い始めたのは、最近だから知らなかったと思うけど…」


なんだか妙に申し訳ない気持ちでその言葉を絞り出した


「…茜」


名前を呼ばれてビクリと肩を揺らしてしまった 
顔が見れずに俯いていた私の両肩に手を置いて先ほどと変わらない眼差しで見つめてくる


「俺、それでもお前の事が好きなんだ!」

「…」

「茜、もう一度だけ俺にチャンスをくれよ…」

「私は、」


ブン太が好きだから


そう続くはずだった言葉を遮ったのは口を覆った手 
その手ともう片方の手は後ろから腰にまわされグイッと引き寄せられ倒れ込むようにして寄り掛かった 誰かなんて確認しなくてもわかった

口に当てられた手を退けて見上げるとやはり赤い髪が視界で揺れた


「茜の良さに気づくのがおせぇんだよお前」

「か、彼氏ってまさか…丸井の事だったのか?」

「だったらなんだよぃ」

「ブン太」


守る様に後ろから抱きついて牽制しようとするブン太を宥めるように腰にまわされた手に自分の手を重ねた



「茜…テニス部の奴なんかと付き合い始めたのか?」

「んだよその言い方」

「丸井は黙っててくれ」


そう言って茜よく聞けとこちらを向き直る



「テニス部の奴らは顔がいいからって女を引っ掻き回してるような連中だ、こいつだって例外じゃない」

「聞き捨てならねぇ…!」

「ブン太、黙って」



少し低めの声で言うとブン太は不満そうだったが口を閉じた 
それを確認してから私は目の前の彼に冷たい視線を送った


「本当の事じゃないくせにそう言う偏見はよくないと思うよ」

「茜!」

「テニス部の人達もブン太もそんなことする人じゃない」

「茜は人がいいから騙されてるんだ!」

「自分の意見を押し付けないで!私はブン太がちゃんと好きでいてくれてる事わかってる!」


偽りの愛なんかじゃない

ブン太の言葉から、行動から、全部溢れてくる本当の愛を私はちゃんと理解してきたつもりだ



「…どうやら色々とわかってなかったのはお前の方だったみたいだな」

「なんだと?」

「根も葉もない噂に便乗して信用を無くしたのはお前だって事だよ」


ブン太がそう言った後彼は悔しそうな表情をしてその場を去って行った



「ブン太」

「茜、これから呼び出された時は俺にもちゃんと言え」


心配で仕方ないってと言いながら向き直ったブン太に今度は正面から抱きしめられた


「そうする、ごめんねブン太…ありがと」


そう言って抱きしめ返すと満足そうに返事が返ってきて思わず笑みがこぼれる



「でもブン太、部活は?」

「あ」


この後仲良く副部長の雷と部長のブリザードに仲良く耐えるのでした、めでたしめでたし。


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