幸村と病院とまた違うお話





「こんにちは」


不意にかけられた言葉に私は戸惑った
それは私にかけられた言葉なのかどうかもわからなかったから

間違っていたら恥ずかしいが、だからと言って確認せず無視するのも失礼だろう



「えと、私に言ってますか?」

「うん、そうだよ」

「ぁ、よかった当たってて…こんにちは」



もし別の人に向けて言っていたのなら私の発言は謎の独り言として聞かれていただろう、危ない危ない


「隣に座ってもいいかな?」

「ええ、どうぞ」


私がそう言うと彼は隣に座る、なんだか声色からもわかるが優しい雰囲気を感じる


「貴方は人柄も周りの環境も素敵なんですね」

「え?」

「あ、突然にごめんなさい…こうなってからそう言うのに敏感なんです」


苦笑しつつ私は目を指さした
何となく彼は困ったような表情になった…ような気がする

私の目は包帯に巻かれ暗闇の世界を作り出している、もう包帯に巻かれたままの生活が約1年ほど経つ


「…目、いつから見えないの?」

「一年ほど、もう慣れましたよ」


包帯を外して目を開けたとしてもそこに続くのは暗闇の世界だろう
だが私の世界は音や感覚で出来ていた
鳥の声、風の音と頬を撫でる風、暖かい日差し…ここに座っているだけでも想像できる世界が広がる

そう、暗闇の世界の中に私は想像上の世界を思い浮かべているのだ



「君はいつもそうやって楽しそうに笑ってるよね」

「え!?」

「あぁ、ごめん。俺も入院中の身だし度々君を見かけてさ」


何もしてないのに、幸せそうに笑ってるから


そう言われてちょっと恥ずかしくなった 
何もしてないのに笑ってるという光景は流石に変だろう…


「変な所見せちゃってすみません」

「謝らないでよ、君のお蔭で俺も頑張ろうって思えたんだし」

「…そうなんですか?」


良くわからないが彼の励ましになったらしい


「また、明日此処で君と話したいな」

「いいんですか?」

「うん、暇だし」

「私もです」

「じゃあ決まりね…俺は精市、君は?」

「茜です」


私の世界が、また一つ広がった



.