幸村と病院と約束
「茜ちゃん」
「あ、精市君」
声をかけてきた精市くんはいつものように優しい笑顔を向けてくれた
いつもならそれだけで癒されるのだが今回は少しだけ悲しい
「精市くんリハビリ順調なの?」
「ああ、もう少しで退院できるって」
「そっか…おめでとう」
少しと言わず凄く寂しいというのが正直な所だけど、彼が本当にしたかったテニスを再び出来るのだからそんなこと言えない
「ありがとう…でももう少し先の話だし、退院してもしばらくの間は通院するし…」
その言葉を聞いて申し訳なくなった、多分私が寂しく思ってることに気づいて気を利かせてしまったのかもしれない
「それに」
「それに?」
「茜ちゃんが退院したら一緒に学校行きたいしね」
「!」
「こまめにお見舞いくるから、茜ちゃんも頑張って」
手術を受けるかどうかを悩んでいた私
彼と同じで私も勝算は5分、怖がって前に勧めなかった私を追い越して行った彼が眩しかった
ずっと迷っていたけど、その言葉で私も踏ん切りがついたのかもしれない
「一緒に、学校…行っていいの?」
「もちろんだよ」
「…なら、頑張る」
「うん」
彼は優しく私の頭を撫でた
私と彼の違うところは体の丈夫さだった
だから私の方が失敗する可能性は高い、それでも彼と学校で過ごす日々を思い描いたらこんなところで立ち止まっていられなかった
「もし、間に合えばの話だけど…」
「え?」
「全国大会、見に来てほしいんだ」
そう言った彼の顔は、今でも覚えてる
眩しく差すような暑い日差しの中、私がハニーイエローのジャージを纏った彼の姿を見る日はそう遠くない
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