丸井に好きだと言われたい幼馴染



※いつもより長めです


「はよー、これもーらい」

「あ、ちょ!ブン太!それ私のドーナツ!」

「いっぱいあんだからいいだろ一個くらい」


そう言って笑う彼は私の幼馴染兼片思いの人
好きだと認識してからは空回りそうだった私だけど、ようやく落ち着いてきたと思う
好きなのに、勇気が出せない私はやっぱり弱いんだろうな 

弱いから、自分のことで精いっぱいでブン太に好きな人がいるなんて考えなかったんだ


「え…彼女?」


彼から彼女ができたときいた時はショックが多すぎて言葉に詰まった
唯一の救いはそれが電話であったということだ

だけどそれからというもの
彼を見る度に自分の思いがぶつかり合って泣きそうになった

最初のうちは体調が悪いということにしていたけど、だんだんそれを通すのも難しくなってきた



「茜、まだ体調悪いのかよ?」

「んー最近寝不足でさ」

「あーそれ暑いからだろ」

「…そうなんだよね、暑くなってきたし」


そんな気持ちを隠すため私はまた嘘をついた 
気づいたら小さい頃みたいな純粋な関係ではなくなっていた

…ううん、彼はまだ純粋に私を幼馴染だって思ってくれてる、私が足踏みしてここにとどまってるだけ

本当は彼に彼女が出来てから好きだと言おうと思った時があった 
いつまでもこんなんじゃ駄目だって
でも、いざ言おうとすると今度は別の不安が生まれた 
付き合ってもらえるわけはない、ただ関係がギクシャクするだけじゃないかって

そう思うと言えなくなった 
だから、私は今日も自分を嘘で塗り固めて彼に接する 
恋人じゃなくたって私は彼の傍に居たかったから



――私は帰宅部だから家にはすぐ帰るし自然とブン太と帰る事は無くなっていた 
小学校の頃とかは家も隣だったし毎日一緒に帰っていたのに


「ブン太…」


切なくなって窓から彼の家を見た時だった


「!?」


漫画みたいに、私と彼の部屋は窓を開ければ行き来できるくらいの距離だった
前はその距離が嬉しかったけど、今ほどそれが嫌だと思った瞬間はなかった。
可愛い彼女と楽しそうに笑ってるブン太なんて、見たくなかった

私はばれない様にすぐ窓の下に座り込んだ、この位置ならあちらからこちらの様子は見えない

カーテンを閉めてしまいたいけど、閉めてる時にこちらを見られたら私… 
そう思うと何もできなくてただじっと膝を抱えた


―――♪


私は携帯の着信音で目が覚めた 
部屋はもう真っ暗で携帯の光を頼りに近づいた


「…っ」


着信の隣に彼の名前が書いてあって思わず怯んだ 
このまま放置すれば鳴りやんでくれる…そう思ったのに私は電話に出てしまった


「…もしもし?」

『あ、もしもし茜?』

「ど、したの?」

『あれ、茜もしかして寝てた?』

「え、あ…うん」

『そっかー、いや家の明かりついてないからちょっと心配でさ。悪いな急に電話して』

「っ…」



なんで、恋人でもないのにこんなに優しくしてくれるの?
昔は嬉しかったそれも今では私を苦しめるだけで…好きじゃないなら、優しくしないで



「心配してくれてありがと、ごめんね心配かけて」

『いいよ、んじゃ』


もともと無理だったんだ、この距離を保つの 

だって私はもうブン太が好きで、幼馴染に見ることなんてできないから 
もう二度と戻れないなら…やっぱりあの時言うべきだったんだ

ブン太に好きだって言ってほしい 
彼女が羨ましいくてあの子になりたいだなんて情けないことまで考えた

それと同時に、ブン太の事だけでここまで感情が左右されることに参ってしまってる


「…好きだよブン太」


もう、前みたいに笑ってくれなくてもいい、接してくれなくてもいいから 


―――ブン太に、好きって言われたい…。







special thanks:奥華子 あなたに好きと言われたい