02






丁度1週間後、愛翔が連絡も無しに島に帰って来た。両親は置いて来たらしいけど…平気なのか…。

「ただいま、清、誠太。」

にっこりと笑う愛翔を見ると太陽が戻ってきたような気がした、セイタだってそう思ったに違いない。
セイタは、思ったよりも普通だった。
あんな事があった…のに、俺に対しても愛翔に対しても普通だ。いつもどおり。
それが俺はどうしても怖かった

「清?どうしたんだよ」

にっこりと、セイタがいない時に顔を覗き込んできた愛翔。
俺はなんとか笑い返して大丈夫、と首を振った。

「嘘だ。」

「え…?」

「大丈夫じゃないでしょ。
俺に嘘は通じないよ?」

『愛翔は良い人だけど、賢くて、よく人の顔を見てる』

本当だ…、本当に分かるんだ。俺のこと…

「俺、…」

『愛翔に、俺とセックスしたって言ってみなよ。』

『愛翔の本性が見れるんじゃない?』

「…俺は、セイタと…」

「…え、?」

バチリ、と愛翔と視線が噛み合った。

「ただいま。」

「ッ…」

セイタが戻ってきた。
妙な雰囲気が一瞬流れて、時が止まったみたいだった。

「あ、おかえり…」

やっと絞り出した声だった。
セイタが、笑った気がした。

「……」


そのままなんとなくぎこちなく進んだ午後も終わり、やっと下校の時間。
セイタは用事があるから、と俺たちに先に帰るように言ってきた。

「じゃ、帰ろっか。」

愛翔は支度を終えたらしく隣に並んで、俺はそれを確認して歩き出した。
これってもしかして言うタイミングってやつ…?

「ま、愛翔」

「あ。あのさ、東京でさ清が好きな漫画の展覧会やっててさ。写真撮ってきたよ。」

「えっえ!まじか!見たいっ!」

「うん…ほら。」

「わー…凄い…あ、コレも!いいなぁ俺も行きたい…」

こいつかっこいいんだよなぁ〜敵キャラなのにめちゃくちゃ強いし、…敵キャラだからか。

「…ねえ、俺んちこない?
新しくゲーム、買ってきたから」

「おおっ!行く!」

「清がやりたがってたやつだよ、ほら…この間のゾンビのやつ。」

にっこり笑う愛翔に再度頷いた。

こんなことになるならホイホイ着いて来なければよかった。

「愛翔、…」

「お昼の時、俺になんて言おうとしたの?」

手首をベッドに押さえつけられて、上に乗られたら身体がビクともしない。

「あの…俺、」

「早く言って?」

「俺…えっと、」

こんな状態でセイタとヤった、なんて言ったら愛翔はどうなるのだろうか。

「はやく」

「俺、…セイタと、…」

「……」

「セイタとヤった、…。」

一瞬の沈黙に思わず愛翔の顔を見てしまった、瞬間後悔。
愛翔の表情は鬼のように変わっていた。

「ま、愛翔…。」

「どうして?
なんでそんな事になったの?どこで?」

「あ、あの…」

「あいつ、どうせ清のこと丸め込んだんだろ?俺に盗られそうだから、」

ギリギリと力が込められていく手首に俺は息が詰まりそうになった。

「前に誠太がいない時にヤってたら良かった?」

言葉が詰まって出てこない俺に痺れを切らしたのか、愛翔が部屋に響くくらいに大きく舌打ちをした。

「誠太と俺じゃ、なにが違うんだよ?
俺もああやって馬鹿みたいにニコニコ笑って、物腰柔らかくすれば良いのかよ?」

「……っ……」

顔を近付けられて思わず顔を背けると、無理やり頬を掴まれて上を向かされる。
自分の息がだんだん荒くなっていくのがわかった。

「早く言えよ。
俺は清が言うならそうやるよ?」

「……っ…ない」

「ん?」

「や、ヤってない…」

「え?」

「俺、本当はセイタとヤってない、…」

身体がブルブルと震えていた。
一瞬力がまたこもったと思ったら、手首から重みが退いた。

「……愛翔…?」

トスンと胸に愛翔の頭が落ちてきて、動かない。

「…良かった、本当だったら俺…」

「ご、ごめん。そんな怒ると思わなかった、」

「怒るよ…。」

顔が動いて俺を見上げて来るように見つめてくる愛翔に、俺もそれに返すように見つめる。

「…ごめん、手首。
…赤くなっちゃってる」

「え?…あ、や、良いよ別に。」

そう返した瞬間手首を掴まれて、反射的に身体がびくりと一瞬反応してしまった。

「…清、」

チュ、と手首にキスをされる。

「好きだよ、本当に。
誠太よりも過ごした期間は短いけど、誠太よりも幸せに出来るって確信した。」

「え…と、」

「気付けばよかった…誠太に言わされてたんだよな。マジで焦った…」

そう言ってから愛翔は俺の胸に痛いほどに頭を擦り付けてきた。

「でもわかった、もう誠太と清と…三人では一緒にいられない。」

「えっ、…」

それって俺が間に入ってるからってこと、だよな…?

「これは清じゃなくて、俺と誠太の…二人の問題なんだけど…。
誠太も、もうそう思ってるんじゃないか。」

三人じゃいられない、って。
そう呟いてから伺うように俺を見る愛翔に俺はただ瞬きを返した。
愛翔が来る前の、セイタと二人きりに戻る…っていうことか。

「誠太とは友達でいて…三人では一緒にいられないけど。
俺は友達には出来ないような事したり、友達には出来ないようなくらいの、清の心の支えになりたい。」

「愛翔…」

「返事は今すぐだとか、馬鹿なこと言わないから。
考えてくれたら嬉しい。」

「…おう。」

暫くの間があったあと、急にパッと愛翔の身体が離れた。

「ってわけで、…送ってくよ。」

そう言ってからちょっとだけ困ったように笑う愛翔。俺は頷いて制服を正してカバンを持った。



「おはよう」

セイタはいつもと同じように眩しい笑顔で挨拶をしてきた。
俺も何だか複雑な心境でそれに挨拶を返した。

学校に着くと愛翔はまだいなくて、やっと来たかと思えばホームルーム直前で。
4時間目が終わっても愛翔が話しかけてくる事はなかった。

昨日考えていたように、俺とセイタは愛翔が来る前に戻ったようだった。

もしかしたら愛翔は、俺が返事をするまでこんな感じなのか?

「どうしたの?キヨ」

「ん、おう。何でもない。」

「そう…」


2日目、3日目、と同じように時は流れて、やっぱり俺が答えを出さなければいけないんだと悟った。

でも答えって、どう出せば良いんだ。
答えを出したら、…どっちかとは居られなくなる…そういうことか…?

そんなの、俺は望んでいないのに…。

セイタはずっと一緒にいて、…掛け替えのない存在だ。セイタがいなくなったら、俺はきっと何かを失った気持ちになってしまうことは間違いない。それは言い切れる。

愛翔は一緒にいた時間は短いけれど、俺の知らない事を教えてくれる、新しい風を感じられるんだ。
俺が俺でいて良いような、ちゃんと個別の一人の人として扱ってくれる…。
俺はそんな愛翔に、惹かれている…のは事実だ。

どっちも違くて、同じように大切だ。
だけどやっぱり、…。


「キヨ」

「セイタ、」

肩を掴まれて並んで歩いていた道の真ん中で止まらざるをえなかった。

「…キヨは俺の事を捨てようとしてるんだね、」

「えっ…」

「キヨの事は分かるよ、誰よりも一番に分かる。」

「す、てるなんて!」

「キヨは、気付いてる?」

セイタが泣きそうな顔で俺にそう言った。
肩を掴んでいる手には力がこもっていた。

「キヨは俺といても愛翔のことを見ていたんだ、今までは俺だけの視線だったのに。
時々思い出したように俺を見て笑うのは心が凄く痛いんだよ、」

「セイタ、…俺はそんなつもり、」

「絶対に無かった?俺はいつだってキヨを見ていたんだよ?キヨの事は、キヨよりも分かるよ…」

「セイタ、俺は…セイタの事を失いたくない…
俺にはセイタが必要なんだよ…どっちかなんて選べない…。」

「…うん、知ってる…分かってるよ。
だから辛いんだ」

足元の踏まれた小石がジャリ、と音を立ててセイタが飛びつくように抱き着いて来た。

「…ごめん、セイタ…」

「好きだよ、好き…キヨ。
本当は、俺だけがいいよ…。」

あの、色素の薄い瞳から綺麗な雫が落ちているんだろうな。
俺は肩に落ちて濡れるそれを愛しく感じた。

それでも俺の愛しいと、セイタの俺を思う愛しい気持ちは同じ様で違うんだ。
お互いに分かってるのにそれでも離れられないのは、…。



「愛翔…、」

「…ん?」

二人では狭いベッドの中で、俺の髪の毛先を電気の光に透かして見ている愛翔からはとても甘い雰囲気が漂っている。

俺から愛翔の家に泊まりたいと言った、それは愛翔に対してのイエス、でもあった。
直接触れなくとも伝わったみたいで、愛翔は笑顔で放課後迎えに来た。

セイタとの別れ際はやっぱり心が痛くて、顔が見れなかった。

「やっぱりセイタとは、離れられない…」

「んーうん、知ってたよ。だけど、セイタより俺を選んでくれたんだよね?」

「……でも、」

「うん、分かってるよ。
誠太と離れろなんて言わないよ、友だちは友だち。
…だよね?」

「……うん。」

「俺とは恋人、誠太とは友だち。
それを清は選んだんだよ。」

「距離が近過ぎて目の前のものがよく見えない何て、よくある事だよね。」

頭をゆっくりとした動作で撫でられて、俺は小さく頷いた。

「眠い?もう寝ようか。」

そう言って電気を消してくれた愛翔に頭を引き寄せられて、俺は愛翔の胸に頭をつけて赤子の様に身体を丸めた。



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