ネトラレ未満





「大丈夫、大丈夫。
落ち着いて、息して」

背中を撫でながらも事を進める幼馴染に俺は夢中で縋り付いた。痛くて、何度もやめてと叫んだけど、幼馴染はいつもの「大丈夫だよ」で俺を丸め込んだ。

最初から少しして、また。
それから定期的に、会うとそういう雰囲気になって…ズルズルとここまできてしまった。
それでも俺と幼馴染の関係は幼馴染、という関係で特に変化はない。

…表面上は

ただ、変わったのは…俺の幼馴染への想い。
気付いたのは周りがそういう雰囲気に流されていた時だった。

『お前は好きな人いねーの?』

友人に何気無く聞かれた時ふと幼馴染の顔がよぎった。「くら!」そう言って俺の名前を呼び、笑う幼馴染の顔が。

『あ、…俺はいない、』

気付いているはずがないのに、何故か友人に見透かされている気がした。それと同時に、この想いは誰にも言っちゃいけないんだ。そう思った。


「…、!…ら!……くら!」

「!…な、なんだよ…」

ハッとすると目の前に迫っていた幼馴染、…景吾の顔にビクリと身体が反応する。

「まーた俺の顔に見惚れちゃってたの?もーしょうがないなぁ…」

そう言って優しく髪を撫で付けるように頭を撫でてくる景吾、…もう、誰のせいでこんなに悩んでると思ってんだし…。

「あ、そうだ。今日さー飲みに行くんだけど、くらも来る?」

「えっ…」

めずらしい…景吾がそんなこと言うだなんて、…いつもは「今日は飲みに行って来る」だとかだけなのに。あとは「だからだるい」とか、「嫌な奴がいる」だとか、それだけで…。

「行きたい!」

「おし、決まり。」

そう言うといそいそと何処かに電話をかける景吾。俺はというとちょっとソワソワしながら景吾を待っていた。

なんだろう、何て言うか景吾は俺のことを他の人に知られるのが嫌っぽかったから連れてってくれなかったのかと思ってた、けど…。
こっそりと景吾の顔を盗み見る。
なんて言うか、楽しそうだ…。


「うぅう…」

「ははっそんなに飲むからだよ〜」

見るからに弱そうだけど、本当に弱いんだね、そう笑う隣の彼の声が耳に入って来るが意味が考えられない。
景吾は向かい側で誰かと笑いあっている。

「わ〜真っ赤っか〜」

ふにふにと頬を突つかれるがもうなんかすべてが気だるくてモゾモゾ動くだけだった。

「あは、寝ちゃうわけ?…ちょっと清水ーこの子酔いつぶれちゃった〜」

清水…確か仕切ってた、…もうダメだ…
ウトウトしていた瞼がぱったりと閉じて開いてくれない。どーせ隣の彼が起こしてくれるだろうし、ちょっとだけ…ちょっとだけ…。



「ん、んー」

ゆさゆさと身体が揺れている、それにこの感じ…気持ちいい?ホワホワしてるけど、なんか…。

「…んっ、けーご…?」

「はよう」

「ぁん、あっ…なんで、」

打ち付けられる腰、お尻が違和感を訴えている。あれ、ここどこだ…いつの間に…
考えている間も景吾はグリグリと腰を押し付けてきて、俺は思わず高く声を上げた。

「はは、よく鳴くな。普段とは違って」

「ぁ、んー…あ、も…無理」

気持ちいいけど、もう疲れたよ、…それに身体がジンジンしてるし…。そんなに酔うほど飲んだのかな…俺。

「けぇご、…やめて…もぅ、眠いよぉ…っ」

「こんなギンギンなのに、やめれねぇよ。
しかもココ、喰いついて離さねぇし」

「…っ…」

目の前はポアポアとした光がいっぱいで、肝心の景吾の顔ははっきり見えない。眩しい…

「ぁ、んっ…けいご、けーごっ…」

だんだん激しくなってきた振動に、振り落とされないよう景吾の背中を掻き抱いた。

「…ぁ、ああっ…」

パタタ、と落ちる液体の音に荒い息で俺をギュウギュウ抱き締めてきた景吾の体温。
俺は景吾の髪を撫でながらゆっくり目を閉じた。

「…逸見、…」


「…っ…!」

ハッと目が覚めて俺は文字通り飛び起きた。
こ、こは…ホテル…?

「け、景吾…?」

「おう、起きたか。はよう」

「……え、…?」

洗面所に行くと誰かが立っていて、振り向くとその人はそう言った。
けど、…景吾ではない。…え?これ、どういうこと、…?

「なんで、幹事のひとが…?」

「えぇ?幹事?」

なんだよそれ、
そう言ってケラケラ笑うその人は、昨日の飲み会を仕切っていた人だった。たしか、清水って、隣の人が言ってたような…?
その彼がなんでここに、

「記憶ないとか言うなよ?」

「え?…え?」

「本当驚いた。まさか普段はあんなに大人しいのに、あんなはしたない鳴き声あげるなんてな。」

「え、な、…なんて言った…?」

「いやらしかったぜ?お前の喘ぎ」

「え…えっ?えっ!なんで!?」

俺、何てことを…何をしでかしたんだろう…だって昨日の仕切ってたときの清水は確か両側に女の子がいたはず…だけど、…なんでこんなことに…?

「…もしかして昨日のは景吾じゃなくて、…清水なの…?本当に?」

「もしかしたも何もねーよ。俺だって」

そう少しイラついたように言う清水に俺はグッと黙った。な、なんてことしてしまったんだ…

「あ、あの…景吾は…?」

「隣の部屋。もーあっちも終わってんだろ。」

「え、…?」

「あ、待て。電話きた…景吾か」

そう言ってスマホを取り出して話し出す清水、俺は全裸で立ち尽くしているだけだった。

「…ぷ、ちょっと待ってろ景吾。
おい逸見、早く着替えろよ。んな格好してっとまた襲うぞ」

そうまた軽快に笑う清水に俺は自分の格好を見てピャッとその場を逃げ出した。後ろで大笑いする清水の声に顔が熱くなる。
だ、だって状況が飲み込めなかったんだ、仕方ないじゃないかよ…

俺はいそいそと着替えて身支度をする。
身体はなんか綺麗だったから、もしかしたら拭いてくれた…のかな?シーツが吸い取ったのかも。なんてね

「おい、出るぞ」

いつの間にか電話を切ったらしい清水がそう言った。
俺は忘れ物がないか確認してから清水のあとを追った。

「おう、待たせたな。ほらよ、」

「…わっ…!」

そう言われながら清水に頭を掴まれて髪を掻き混ぜられながら前に出される。
目の前には笑顔の景吾が立っていた。
…その隣には俺の、昨日の飲み会で隣に座ってた彼。

「…あ、えっと、…」

「…どうだった?楽しめた?気持ち良かったでしょ?」

にっこりとそう聞いてくる景吾に俺はドキリとしてグッと下唇を噛んだ。なんだか泣きそうだった。もう気持ち的には泣いていた。
分かってた、分かってたけど…やっぱり景吾にとって俺はそんなもんだったんだ。

「くら?」

「…も、いい。」

「え?」

「もう嫌だっての!景吾なんか、…」

俺は俯いて必死で涙を耐える。けど、ポロポロ涙が落ちて来た。なんで俺がこんな思いしなきゃならないんだよ…なんだってこんな、辛いんだよ…。
さっきまでよく分からないまま状況が把握できなかった。けど、景吾が笑って楽しめたって聞いてきた時に分かった。
景吾は同意の上で隣にいる彼とコトに及んで、俺も清水と同意でコトに及んだと思ってるんだ。
俺は清水を景吾だと思ってたけど、景吾は彼を彼って見て抱いてた。

「けーごなんか、…っ」

「…どうしたの、くら。もしかして身体痛かった?ん?」

言ってみな?
そう言われて抱き締められる。清水と彼は先に行くぞ、と言って行ってしまった。

「景吾…っうぅ、」

もうきっとバレてる。
景吾は勘がいいんだ、こんな泣いたら俺の気持ちも何もかも…バレるに決まってる。

「俺、景吾とシてると思って…っで、でも、起きたら景吾じゃないし、…景吾はあの子と、…っ」

「うん。落ち着いて、ゆっくり息を吐いて」

大丈夫、大丈夫だから。
そう言われて背中をしばらく撫でられる。

「あれはセックスじゃないよ。ちゃんとゴムしてたんだ…くらもそうでしょう?」

「…そ、そう…」

…そう、だよな…?だって腹も痛くないし、何も出なかった。

「じゃあ大丈夫。心配しないで、俺もゴムつけてたから、セックスじゃないよ。ね?
安心して」

そう言われて額にキスをされる。
わかってるんだ、俺だって馬鹿じゃない…馬鹿じゃないのに、今は騙されたい…セックスじゃなかったんだ、って信じたい。

「…分かった…。」

ああもう。



「おう、逸見」

「……清水、」

「ちょっとー…僕もいるんだけど!」

ひょっこりと顔を出したのはあの、隣の彼だった。

「えっと、」

「僕は花崎、花崎馨。飲み会の時もちゃんと自己紹介したよねー?もーなんで忘れちゃうかなぁ」

こんなに可愛いのにー!
そう言ってカツ丼…多分大盛り…の乗ったトレイをテーブルに置く花崎くん。た、確かに可愛いけど随分と男らしい物食べてるな…。

「花崎くん」

「馨でいいって。あ、くんもいらないから。」

「馨…この間はごめんな、俺結構酔ってて…」

「別にいーよ。それに美味しい思いも出来たし」

「……それ、…」

「あ、清水マヨネーズとって」

それって、景吾のこと…だよな?
なんだか鼻の奥がツンと痛くなって慌てて席を立つ。

「え?もういらないの?」

そう言って馨は俺のトレイを指した。そこには少し手をつけたかき揚げうどんの丼。

「…あ、うん」

「じゃあ僕食べるからそこ置いといて。」

そう言いながらカツ丼にマヨネーズをドバドバかけていく馨。

「なに?」

「あ、いや…よく食べるなと思って」

「僕がよく食べたら可笑しいわけ?」

俺がヤバイと思って黙っているとそこにすかさず入ってくる清水。

「まあまあ…コイツは食になると煩いんだよ。誰よりも食い意地が張ってるからな」

そう言ってぐしゃぐしゃと馨の頭を撫で回す清水。それって清水の癖なのかな…俺もやられた気がする…

「…清水にはこんなに唐揚げいらないよね!」

ぱっくんと清水のトレイに乗っていた唐揚げを一つ盗み食いした馨。

「ほらな?」

「はは」

じゃあ、行くわ。
そう言って手に持っていたトレイを置いて2人に手を振る。清水はヒラヒラと手を振ってくれたが馨は相変わらずカツ丼にがっついていた。

「……」

あのふたりも、そういう関係…ってことだよな…?恋人同士なのかな…。
景吾はあの時のことを清水たちとのスワッピングに付き合った、っていってるし…多分付き合ってる、んだろうな。
調べてみたことだけど、スワッピングってパートナー同士組んでやるみたいだし…。
…でも俺と景吾の関係は…?
ふたりは恋人同士で、楽しんでそう言うことをしてるのかもしれない。…でも、景吾は…?景吾も、楽しんでそういうことをしてるのか…?
そんなことを考えていると鳴りだした携帯、見れば景吾からの着信だった。

「……もしもし、」

『もしもし、くら?』

相変わらずいつもと同じような明るさで喋りかけてきた景吾、俺はそれにホッとしつつも…空しい気もした。
俺が誰とセックスしたとしても景吾にはどうも思わない事で、だから何、っていう気持ちかもしれない。

「うん、どうした」

『あのさ、今日くらんち行くから…』

「うん…」

分かってる。この先はいつも同じような言葉だ。
俺はそれに頷く…ただそれだけ

『夜御飯は肉がいいな。』

「…わかった。じゃあしゃぶしゃぶにする」

『うん!よろしくねえ。帰る前に電話、するから』

じゃ。
そう言って切られた電話に俺も携帯をしまう。
…しゃぶしゃぶ用に肉買ってこなきゃ…



「あれ、逸見」

「え、あ、清水、」

「なんでこんなとこにいんの…ああ、独り暮らしか」

確かにここのスーパー安いもんな。
そう言って笑う清水、つい周りを見るが馨はいないみたいだ…

「なに、馨探してんの?」

「あっいや、別に…」

「景吾もいねえみたいだな」

「あ、うん…」

そう言って俺の持っているカゴの中を見る清水、そして首を傾げた。

「宅飲みか?」

「え、…いや、違うけど。」

なんていうか、景吾は昔から一緒だったから慣れてるけど…清水と会うのは、なんか…恥ずかしい。自分の痴態を知ってるってのもそうだけど俺、清水に…

「じゃあカレシか?」

そう、意味ありげに言ってにやりと笑って見せる清水。
多分、勘違いしてる…。

「景吾と、うちで晩飯食べるから」

「は?景吾なら今日はどっかに飲みに行くって、さっき張り切ってたぞ」

「え…?」

「なんだ、逸見も一緒だと思ってた」

俺はふるふると首を横に振る。
…ってことは夜御飯もいらないってこと…?
で、でも電話するって、言ってたし…!

「…じゃあ俺んちでそれやろうぜ。んで、景吾が来るなら呼べばいいし」

俺んちのが近いだろうし、泊まればいいだろ?そう言って俺の頭をぐしゃぐしゃになるまで強く撫でられた。…これは、清水なりの励ましなのかな、

「それ、なにやんの」

「…しゃぶしゃぶだけど、」

「あ、俺好き。ポン酢切れてっから買ってこうぜ」

それから3件くらい景吾に電話をしてみたが、清水が言った通りに飲みに行っているみたいで出なかった。…もしかしたら、…。

「あーあ…景吾ったらこんな上手い飯逃しちまって」

カワイソー、そう言ったのは清水だったがほとんど食べてしまったのも清水だった。
…でも、清水もこんな、…俺といていいのかな?気にしすぎか?…いやでも、…

「…じゃ、デザートでも食うとすっか。」

「え、デザートなんて買った、…っ!」



「ここにあるじゃねえか。こんなに美味そうな、デザートが」





『ゴムを着ければセックスじゃないから』


「…逸見?」

「…ゴム、着けなかった、…」

「…別に、景吾に操立てる義理はねえだろ。恋人でもないんだから」

そう言われて清水の匂いがする布団の中で抱きしめられる。
そりゃ、恋人じゃないし。きっと景吾は俺のことをそう言う眼で見てないのは分かってる。…けど、

「でも、…好きなんだ、」

ポロリ、と本人に言えるわけがない言葉が出た。誰にも言ったことなんてない、この気持ち。清水になら言えると思ったわけじゃない、もう溜めることができなくなったんだ。
溜めて溜めて、そして溢れた。

「…景吾は今誰かと寝てるかもじゃん
バイだろ?女かもよ?」

バカにしたようにそう言ってくる清水に俺はグ、と言葉に詰まってしまう。

「で、でも飲み会だって…っ」

「ただの飲み会で済むと思ってんのか?この間スワップしたばっかだってのに」

「あれは…っ!」

「…言っとくけどさ、誘って来たのは景吾だからな。」

「ぇ、…っ?」

「興味あるんだ、って言ってきて。で、俺たちは同意した。」

「う、そだぁ…」

思わず俺は布団から身体を起こした。
清水はそんな俺を見てケラケラと笑い始めた。

「景吾は逸見が思った程いいヤツじゃないってコトだ。」

「…ちがう、って言ってたのに…」

誘われた、って言ってたんだ…景吾は

「きっと馨が美味しそうに見えたんだろうな。」

「……」

そう、かもしれない…。

「…ど、しよ」

「逸見は景吾に騙されてたんだな。かわいそうに、」

わしゃわしゃとまた頭を撫でられる。今度はとても優しい手つきだった。

「清水、…」

「竜二って呼べよ。景吾みたいに、名前で。」

「りゅ、じ…」

「そ、蔵也。」

俺の名前、知ってたのか…なんだか久しぶりに本当の名前、呼んでもらった気がする。

「実はな、あの時もゴム、着けてなかったんだぜ。」

「えっ?それって、」

どうゆうこと。
そう続けようとした俺の唇は迫ってきた竜二の唇に塞がれた。


「…いつか、わかるさ。」


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