類は友を呼ぶ


  


「お前そんなもんばっか食ってるといつか体壊すぞ」

そう言って定食Aのボタンを押す清水。
うわ、最悪こいつ。…小銭入れれば良かった。

「うるさいよっ…ていうか、これ僕の食券だったんだけど」

「たまには普通のもんも食えって。あ、マヨは無しな」

「…寝取り魔のくせして」

「ねっ、寝取ったのは一回だけしかねぇよ!ていうかアレは景吾が悪かったんだ。俺にあんなこと言って来るなんてな。
ま、そのお陰であーんな可愛い恋人がお出迎えしてくれるんだぜ?そりゃもう毎晩よ」

そう言いながらデレデレした引き締まりのない表情をする清水。…ていうか、最近あの子見ないんだけど。どこへやっちゃったのさ。
まあ、聞かないけどね。

「そういえばあの顔見た?超笑えたけど、自業自得だよねー。」

「俺と蔵也が幸せならそれで良いんだよ。」

清水はそう言って笑う。
ぶっちゃけどうでもいいけど、清水がその”景吾”に今でも嫉妬してるのはなんとなくわかった。いつからだったっけな、クラヤを可愛い可愛いと騒いでたのは。

「そういえばお前その間なにしてたんだよ?…まさかお前も、」

「僕がやられると思ってんの。むしろ食べる方だし!
その間はずっとファミレスで飲み食いしてた。余裕でメニュー制覇したしね。」

「ゲ。マジかよ…どんだけ金掛けたんだよ…」

「言っとくけど全部あっち持ちだからね」

セフレ寝取られた挙句にそれに金払ってたなんてね。笑っちゃうよね、ほんと。
可哀想だけど、自業自得。本当に大切だったらずっとそばに置いておかなきゃいけないのに。

「わー…酷いヤツだなーお前。」

「清水も共犯でしょ。」

「まあな」

清水は笑いながら生姜焼きのキャベツをパクリと一口。コイツはいつからクラヤを奪おうと思ってたんだろう。クラヤはそれで納得したのかな

「あ、今日鍋やるんだぜ。来るか?」

「ううん。今日もデートだから!」

「あー例の…」

「彼ったら、ちょー可愛いんだよ!ま、僕も可愛いんだけど、彼には叶わないかなぁ」

「会わせろって言ってるの「駄目」

そう言った瞬間ヒクリ、と清水の顔が歪んだ。

「お前絶対に景吾みたいなこと、しなそうだよな。」

「当たり前じゃん!」

僕はあんな奴とは違う。根本的には同じでも、やり方が間違ってるんだ。好きな人…彼をドロドロに甘やかして、他のは目にも映させない。僕を、僕だけを見てくれるように…ただそれだけでいいのに。


「ただいま!」

そう言って玄関のドアを開ける、がガチャン、とチェーンが行く手を阻んだ。

「しょーたろー、あーけーてー」

隙間からスマホを入れて中を見る。
だいだい色の毛布を掴んだ尚太郎がこちらへ向かってススス、と歩み寄ってきていた。
しばらくしてからカチャカチャとチェーンを外す音に扉があっちから開いて、愛しい彼が迎えてくれた。

「尚太郎!ただいま!」

ぎゅう、とその身体を抱き締めると頭を肩に押し付けられてグリグリって、…もうここで盛っちゃいたいくらいに超絶可愛い。

「ん?どしたのー…あーあ、お漏らししちゃったんだぁ」

ビクリ、と細い肩が震える。
彼が履いている群青のスウェットはそれに濡れて色濃くなっていた。

「大丈夫だよ、怒ってない。きっと怖い夢見ちゃったんだよね。…どういう夢だったんだろ、…」

妬けるな。
そんな言葉は飲み込んで彼の頭を撫でる。

「お風呂入ろっか」

そう言って彼の背中を撫でるとコクリ、と小さく頷いた。…カワイイ



「尚太郎、今日は何したの」

「……」

「またずっとテレビ見てたのかぁ、…なにか面白いのやってたの?」

尚太郎はあまり喋らない。というか、言葉が突っかかって出てこないみたいだ。
だからいつも僕は尚太郎がなにかを伝えたがっている時は一緒に手伝ってあげるんだ
…まあでも僕は尚太郎が言わなくても尚太郎のことならなんでもわかるんだけどね。

「あ、もしかしてあのドラマの再放送?この間もやっててそれ見てたよねぇ。」

「あ、…ん。」

「やっぱり?…僕ってやっぱり尚太郎のことちゃんとわかってるなぁ。こんなに尚太郎のことわかるの、僕しかいないんじゃないかな?」

そう言ってから尚太郎をこっそりと盗み見ると尚太郎はにっこり笑ったがタオルケットで笑顔を隠してしまった。

「ふふ。尚太郎は可愛いね。
今日ね、清水に鍋やらないかって誘われたんだけど尚太郎、清水の事怖いでしょう?」

そう言って尚太郎の細くて折れそうな腕を優しく掴む。すると尚太郎は恐る恐るだが僕の手に自分の手を重ね合わせてきた。
尚太郎の暖かさをじんわりと感じて僕は目を細めた。

「……怖くないよ、」

「…え、?」

「…馨くんの、お友だちだもん…怖くないよ、」

「そっか…。
じゃあ今度会ってみる?」

ほんの少しのイタズラ心だった。
どうせ、と決め付けて口にした言葉は意外にも尚太郎を笑顔にさせた。

「うん。馨くんのお友だちなら、いい人だよ…っ」

「…だね」

尚太郎はあまり外に出たがらない
尚太郎は人に会いたがらない
尚太郎はあまり人に関心がない

「今度、連れて来るね」

心のなかの何かがブチンと音を立てて切れた。
これは何だろう

「尚太郎が清水に会いたいって。」

「…え、…は?」

僕は馬鹿面をしている清水に向かって舌打ちをした。

「…んな顔するなら別に」

「尚太郎が言ってるんだ。尚太郎の言うことは全部叶えたいから」

「…じゃあ、蔵也も久々に外に出そうかな。」

そしたらお相子だろ?
そう言って笑う清水に僕はフン、と顔を逸らした。



「いらっしゃい」

「…あ、の…はじめまして、」

「ショウタロウくんだよね。初めまして。
こっちは蔵也だよ。俺の恋人」

「えっと、初めまして。馨くんは久しぶりだけど、」

そう言って笑うクラヤはなんとなくだけどやつれた?感じがする。
多分あまり寝てないのかもしれない。それだけ抱きつぶされてるんだろうな。
それとも外にでてないから、とか?

「じゃあさっそく鍋パーティーするか!」

「蟹じゃ無いの?蟹」

「ねぇーよ!牛肉だぞ牛肉ー贅沢を味わえ。」

そう言ってドボドボと材料を入れていく清水、尚太郎は何かを気遣うような顔をして少しそわそわしていた。

「尚太郎?」

「ぁ、…馨くん、ぼ、…」

「尚太郎は何もしなくていいよ。清水が全部やってくれるからね。」

僕と尚太郎で切った野菜たちが沸騰している泡に打たれてゆらゆらと動いていた。

「……」

「…あー、…ショウタロウくん、ちょっと火を弱くしてくれるかな?」

「っ!…はい、…っ」

尚太郎が清水の声に反応して前にあったつまみを掴み火を弱くした。

「ん、ありがとう。」

「…んん、」

少しうつむいてかぶりを振る。
俺はその時見た。尚太郎が少し遠慮がちにはにかんだことを。

「…っ…」

「あ、えっと、取り皿ってあるかなっ?」

クラヤはそう言って俺を見てからわざとらしく首をかしげた。

「…ああ、こっちだよ。」

「て、手伝うよ!」

パタパタと後ろからクラヤが着いてくる足音。

「むかつく」

「えっ?」

尚太郎が、清水に向かって笑った。ムカつく。
独占欲がなんだよ、妬いて悪いか。

「…大丈夫だよ。ただ、尚太郎くんは友だちが欲しいだけだよ。」

「僕と尚太郎の関係って清水から聞いてる」

「え…?関係って、」

付き合ってるんじゃないの?と言いたそうな顔をするクラヤに僕は少し視線を逸らした。

「花崎尚太郎って言うんだ。」

「え…あ、」

クラヤは少し考えてハッとしたように僕を見た。

「三つ年上だよ。見えないけど、」

「…それは俺が聞いても大丈夫なのか?」

「別に気にしないよ。
血が繋がってるからどうとか無いし、尚太郎が尚太郎だから僕は好きなんだ。」

「えと…、」

「尚太郎は何も知らない。
尚太郎が僕を求めてくれるなら、僕はそれに答えるだけだし。でも、僕以外を求めるならそいつには容赦はしないけど」

「そっか…」

そう言ってクラヤは俯いて何か考えているようだった。

「おーい。鍋出来たぞー」

そう言ってひょっこり顔を出したのは他でも無い清水だった。

「はやく取り皿持って来いよー」

僕は四人分の箸をクラヤに半ば押し付けるように渡してから皿を持った。
その後からクラヤがついて来たが何も言わなかった。

「そんなにジッと見てると、眼が乾いちゃうよ。」

尚太郎にそう言ってから目尻にキスをした。すると尚太郎は少し顔を顰めて身をよじった。

「ああ、ごめんごめん。恥ずかしいよね、」

「ほらよ。ショウタロウくんは何がいい?肉がいいか?」

そう言って清水が尚太郎の顔を覗き込むと、尚太郎は顔を少し赤くしてからコクリと頷いた。

ふざけるな

「クラヤ、口のとこ」

そう言ってクラヤの口元を指で拭ってからペロリと指先を舐める。
クラヤは驚いた表情のまま固まっていた。
清水をチラリと見やれば澄まし顔。

「…ッ」

「ちょ、ちょっと馨。ていうか、何…あ、鍋がっ」

グツグツと沸騰し過ぎの鍋のひねりに手を伸ばしたクラヤ。
尚太郎を見るとサッと視線を逸らした。

「…?」

「ほら、馨も食え。」

「え、ちょ、野菜なんか乗せないでよ!」

「野菜も食べないと育たないぞー」

「……」

どっさりだかこんもりだか、それくらいに皿に野菜を乗せてくる清水に僕はむっとして清水を睨んだ。

「…別に、これくらいなんともないけど。」

尚太郎のまえだからどうこう言わないけど、あとで覚えてろよな、清水。

「じゃあもっと食べるかあ?」

ニカリ、と白い歯で笑顔を浮かべる清水は紛れもなく僕に対して嫉妬しているようでフンと鼻だけで笑ってやった。

「ちょ、ちょっと二人とも…!」

そう言って間を割って入ってきたのはクラヤだった。
クラヤは「もー」だとかなんだとか言いながらも楽しそうに笑っていた。

「…っ…」

最中、ちらりと見た尚太郎はなんだか楽しくなさそうに肉をツンツンとつついていた。
僕はそれを見て心がドキリと声を上げた。やっぱり、嫌でしょう?僕と二人がいいでしょ?そう言って尚太郎を抱きしめたくなった。


「帰ったよ、二人とも。
またね、だってさ」

そう言って、もぞりとも動かないタオルにくるまった物体に声を掛けるが依然として反応はない。


「…尚太郎?」

「…」

僕が顔を見ようと覗き込むとぐるりと違う方向を向いてしまう尚太郎に僕はムッとして思わずタオルをはぎ取りたくなったが、心を抑えつつ…

「…楽しかった?」

「……」

「またうちに呼ぼうか?」

ああ、にやけが止まらない。
こんな可愛いミノムシ君をどうしてやろうか。

「……よ」

「ん?」

「…こ、この家は、馨くんと二人で…じゅ、じゅうぶんだよ…、」

せ、せまい…から。
そう言ってからこちらに寝返りを打って、少し顔を出す尚太郎。

「…うん。そうだね、この家に四人は狭いもんね。
二人で十分だよね。」

尚太郎の額にチュー、とタコみたいに吸い付くと尚太郎は布団から這い出してきて僕の背中に腕を回した。



「蔵也、どうした?」

「…うん、あのさ、あのふたりは通じ合ってそうだけどなーって思って、さ…。」

だってさっきの尚太郎くん、絶対俺に嫉妬してたよ…
そう言ってから竜二を見上げると竜二は少しムッとした顔をしていた。

「えっ?竜二?」

「…俺も、してたんだけど。」

「?」

「嫉妬。
蔵也が馨にほっぺた触らせただろ?まあ馨が妬かせたかったのが分かったから言わなかったけど」

正直馨のことぶん殴りそうになったよ。
そう言われて抱き締められる。

「…うん。ごめん。」

「いくら馨でも、やっていいこととダメなことがあるからな。ちゃんと気を付けろよ。」

「うん…」

結局、馨の思惑通りに進んでたのか…。
でも多分一番あの中で嫉妬してたのは尚太郎くん、だろうなぁ…。

俺は尚太郎くんに睨まれた時の瞳を思い出しながら、竜二の背中を抱き締め返した。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -