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「おかえりなさ……、レン様!?」
テツの声が響く。
「これは一体……。」
テツが驚くのも当然だ。
僕が人を連れて帰ってきた。
それも、あの櫂トシキを連れて。
テツの驚いた表情は一瞬で、すぐにあの無愛想なものへと変わった。
いや、少し怒っているようにも見える。
櫂を睨み付けるテツを制すように僕は言った。
「今日の櫂には事情があってね。この通り……。」
見ると櫂の肩がわずかに跳ね、慌てたように視線を落とす。
「……ね?子犬でも拾ってきた、くらいに思ってください。」
「レン様……。」
心配そうなテツをよそに僕は櫂の手を引き、奥へと招いた。
最初こそショックを受けたものの、僕は内心嬉しかった。
話を聞けば、櫂は所謂記憶喪失というやつらしい。
タクシーの中で櫂はか弱く語ってくれた。
原因がわからないこと。
ついさっきまで病院にいたこと。
あのチームのやつらが見舞いに来ていたこと。
そして、微かに僕を覚えていること。
覚えていると言っても、会ったことがある気がする、という程度だがそれでもよかった。
理由はどうあれ、櫂が今僕の近くにいる。
僕と触れている。
こんな時が来るのをどれだけ待っていたことか。
ようやくたどり着いた部屋のドアを開けると、僕は櫂を中に入れ、念のために鍵をかけた。
電気もつけずにコートをかける。
突っ立ったままの櫂をベッドにでも座るように促した。
「レン……さん。」
「レンでいいよ。」
「……レン。」
「フフ、なんですか?」
僕も櫂の隣に座ると、そっと上着を脱がせた。
「あっ……。えっと、俺、これからどうすれば……。」
櫂の後ろへ周り、背後から前へ腕をまわす。
抱き締めると、シャツから櫂の体温が伝わってきた。
僕よりもしっかりとした身体。
ああ、いつの間にこんな風に成長していたんですね。
キャラメル色の髪から見え隠れする首筋は白く艶やかで、僕は思わず口づけた。
櫂がピク、と反応する。
「何して……!」
僕は肩越しに櫂の顔を覗きこむと、薄く開かれた唇に自分のそれを重ねた。
「んっ……。ぅ……。」
離してはまた口づける。
隙間からこぼれる唾液も気にせずに、僕は櫂の口内を侵した。
くぐもった声が部屋に響く。
しばらくすると櫂の体重が僕の方へと傾いた。
「驚きましたか?」
肩で息をしながら櫂は小さく頷く。
もう止められない。
僕は自分の沸き上がる理性を制することが出来なかった。
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