みなさん、こんにちは。

今日は2月14日、バレンタインデーですね。

聞けば、想い人にチョコをもってして愛を伝える日だというじゃないですか。

性別?

関係ありませんよ、そんなもの。

僕、雀ヶ森レンも想いを伝えたい人がいるのです。

ええ、もちろん、恋人の櫂にね。


◆◆櫂くんがもらう側っ!◆◆


赤というのは、やはり櫂に似合う色だと僕は思う。

だから、人生初の手作りチョコレートの包装紙は赤色にした。

情熱、愛、それにこの僕を思わせる色。

本当に櫂にはぴったりだ。


(櫂……どこにいるんですか…)


昨日、テツとアサカに手伝ってもらいながらなんとか完成させたチョコレート。

櫂の口に合うようにほろ苦く、大人の恋愛のような味わいに仕上げ(てもらった)、見た目は売り物と見間違えるような出来映えである。

ああ、早く櫂に食べてもらいたい……。

ポケットの中にきちんと箱が入っているのを確認し、僕は櫂がよく昼寝をしていると噂の公園へ向かった。

そして期待通り櫂はいた。

しかし僕は櫂に近づくことができず、木陰に隠れた。

なぜなら、櫂は昼寝なんかしていなくて、代わりにベンチに座っていたのである。

小柄で可愛らしい、(恋の)ライバルであるアイチくんと一緒に。


(な、なんなんですか一体……!?)


アイチくんは明らかにチョコレートが入っている袋を手にしている。

遠くから見ている僕にはそれがわかるのに、櫂はなんの袋であるかわかっていないようだ。

僕と櫂が恋人同士なのはなかなか有名な話で、最初こそ櫂はみんなにバレたことを嫌がっていたものの今ではそこまで気にしてはいないようだった。

僕たちの関係を知りながらも櫂に迫るアイチくん……、大胆ですね……。


(あっ、渡した!)


しかも受け取った……!

僕より先に渡すなんて、許しませんよアイチくん……。

下唇を噛み締めてキッと青い悪魔(レン様補正)を睨む。

僕の念を感じ取ったかのようにアイチくんはこちらを振り向いた。

そして僕に気づくとペロリと赤い舌を出して見せたのだ。


(!!!?)


ざわっ……と心に靄がかかる。

僕は今すぐにでもここを飛び出してアイチくんにファイトを申し込みたい気持ちを抑えた。

僕がどうこうするより、櫂からアイチくんに何かをビシッと言った方が効くに違いないかだ。

しかし櫂は相変わらず僕には気づかず頭の上にはてなマークを浮かべながら袋を開けている。


(俺にはレンがいるから的なことを言ってください、櫂っ!!)


それをいいことにアイチくんは櫂に向き直ると、櫂が開けた袋の中へ手を突っ込み一粒のチョコレートを取り出した。

それを櫂の口へと押し込む。


(かっ……櫂の可愛い口が犯される……!)


アイチくんの指先まで櫂の口へと進入していた。

チョコのついたその指をアイチくんは自分の口へと運び舐めとる。

櫂の唾液がぁぁっ……!!


(もう我慢できません!!)


僕は木陰を飛び出した。

葉が擦れる音がするや否やアイチくんは櫂から袋を奪い、数回手を振った。


「またね、櫂くん!」

「あっ、待ちなさい、アイチくんっ!!」


追いかけようとする僕の腕を櫂に捕まれる。


「レン……!」


僕の気持ちは収まらないけど、櫂かアイチくんかといったらもちろん櫂を取るわけで、僕は櫂の髪を撫でた。

櫂のお陰で助かりましたね、アイチくん……。


「まったく、危機感無さすぎです」


僕を見上げる櫂の顔を覗き込めば、唇が若干ココアパウダーに汚れていて僕は櫂の顎に指をかけると上を向かせた。


「っ……!?」


動揺の色を帯びた櫂の瞳。

ここが公園であることなんで僕には関係ない。

僕は櫂に口付けた。

甘い……。


「んっ…………」


口内に残るチョコレートをすべて拭い去る勢いでその柔らかい唇を貪る。

歯列をなぞり、舌も吸って綺麗にしてやる。

そして唇をねぶると、櫂を解放した。


「なっ……!!」


真っ赤になった櫂は口をパクパクさせて僕を見上げていた。

公園中の視線が突き刺さっている(ような気がする)。

僕は人前だろうと公共の場であろうと全く気にならないけど櫂はこういうことで目立つのは大嫌いだ。

僕だって櫂が嫌がることはしたくないから極力気を付けてはいる。

それでも今はどうしても抑えられなかった。


「帰りますよ、櫂」


櫂の手を引いて歩き出す。

櫂は僕の手を振り払うと「自分で歩ける」と眉間に皺を寄せた。

自然と櫂のマンションへの帰路につく。

タイミングよく開かれたエレベーターへ乗り込んだ。


「…なんで、アイチくんのチョコ、食べちゃったんですか」

「どこから見ていたんだ……」

「最初からです」

「まったく……」

「なんでアイチくんの…」

「見てたんだろ?押し込まれたんだ」


チン。

櫂に続いて僕もエレベーターを出た。

玄関を開ける櫂。

部屋の中は相変わらず必要最低限なものしか揃っていなかった。

僕は座り心地のよいソファーに深く腰かける。

櫂は明かりをつけてから、ふぅ……と長い溜め息をついた。

完全に人目から断たれた安心からなのだろう。

本人は無意識なのかもしれないが、外とここでは大分表情の柔らかさが違う。

僕だけに見せる安心しきった表情。






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