日付が変わってしまったというのに俺は寝付けずにいた。

胸の奥がキリキリと痛み睡眠の邪魔をする。

ソファーに深く腰掛けながら、俺は押し寄せる濁った感情の行き場を何度も考えた。

考えたがそんな感情を受け止められるのはあいつしかいなくて、なのにあいつは俺の気持ちに気付かないどころか、恋人と楽しい日々を過ごしている。

放課後も以前は俺との時間だったのに今は、もう、俺と過ごす時間すらない。

せめて同じクラスだったら良かったのに。

そう考える度、自分が叶わぬ恋をしているんだと自覚させられた。

待受を一度も変えたことがない携帯を開く。

メールの受信ボックスは俺の期待を裏切るばかりだ。


「三和……」


呟くだけで、胸がトクン…と高鳴る。

気管を塞がれたようなこの息苦しさは、想いからくるものなのか哀しみからくるものなのかもはやわからなくなっていた。

本当は大声で叫びたい。

渦巻く気持ちを吐き出してしまいたい。

しかし、対人関係に臆病な俺にそんなことができるはずもなく、今日もまた自分で自分を慰めるのであった。

膝立ちになり、下半身を完全にさらけ出す。

携帯から想い人の画像を探し出すと画面いっぱいに映した。

それをテーブルの上に置く。


「っぁ…三和……」


すでに熱を持ったぺニスを掴み、根元から擦りあげる。

画面の三和がこっちを見てる。

澄んだ瞳で瞬きもせず、じっと俺を見詰めている。

そんなイメージが俺を興奮させ、気分を高めた。

こんなときは自分のイメージ力に感謝だ。

三和の声も仕草も視線も簡単に脳内で再生することができる。

言われたことがないことばだって言わせることができてしまうんだから。

今だけは、三和は俺のことだけを見てくれて俺のことがだいすきで俺のことを誰よりも大切に想ってくれている、そんな設定だった。

俺はソファーに背中を預ける体勢になり、脚を左右に開いた。

三和に見せつけるようにわざと姿勢を悪くしてアナルを晒した。


「…………っ」


きゅんきゅんと腰が疼いて仕方がない。

ちゅ、ちゅぷ……。

音を立てながら指に唾液を絡ませアナルをなぞった。

いつか、三和に捧げることを想って毎日のように解されてきたソコは2本の指を抵抗なく呑み込んでいった。

火傷しそうなくらいに熱い体内。

とろとろにとろけていて、もし三和が挿入してくれたら、その瞬間に虜にしてしまうくらいの自身はあった。


「ぁっ、……ん…」


一番感じるところを擦ればそこから電流のように快感が駆け巡り、触れなくともぺニスからは透明な液体が零れ重力にしたがって伝う。


「三和っ…ぁ、見て…ぇ……」


自分でシているにも関わらずこんなに感じてしまうのだから、三和の指だったらとっくにイってるなと思った。

くちゅくちゅといやらしい水音がやけに大きく響いた。

「櫂!」「櫂?」「かーい!」三和が俺を呼ぶ声をイメージする。

その心地好い声は俺にとっては媚薬でありまた麻薬だった。


「っは……、イキそ……っ…」


胸の奥がきゅぅっと切なく痛む。

俺は三和の透き通る瞳に見つめられて達するのが好きだ。

と、いうか癖になっている。

瞳とは真逆のどろどろと濁った行為をしている自分を見られているという感覚は、興奮とはまた違う快感を俺に与えた。

イケナイ事を裏でこそこそしているような、バレるのではないかというようなスリルを感じることができた。

俺は携帯画面に目をやり澄んだ瞳と視線を交わした。


「は、……三和…ぁ……」


その時だった。

画面が急に切り替わり、電話番号と着信相手の名前が表示されたのだ。

いつもバイブ音までオフにしたマナーモードに設定しているため、画面だけがチカチカと賑やかに動いた。

心臓が跳ね上がってしまう。


「ど…、しよう……」


三和タイシ。

正しくは三和タイシの後に星マークが付いているのだが、そんなタイミングのよすぎる相手から着信があるなんて。

一瞬惑ったが、マナーモードのせいで着信に気づけなかった経験を思い返すと、携帯を手にしない選択肢は消去された。

アナルに突っ込んだ指はそのままに、空いている手で携帯を取り通話ボタンを押す。

上擦りそうになる声を抑えようと、唾を飲み込んでから携帯を耳にあてた。


「なん、だ……」


サァァと空気の流れる音。

次いで表示名の人物の声が耳へ響いた。


「ッ、かっ、櫂!?……!」


だが、どこかおかしい。

よく通る声は、マラソンをした後を彷彿させるような切羽詰まったもので、ボリュームも疎らだ。

息の掛かる音が目立ち、雑音も多い。

俺は三和に関して相当敏感になっているらしい。


「どうした……?」


形式上わからないフリをする。

直感なのか無意識に合致する要素を拾っていたのかはわからないが、俺は三和がそういう状況にあるんだと思った。

鎖を振り回しているようなあいつのことだ、こんなプレイを強いたとしてもなんの不思議もない。

わざわざ俺を巻き込むなんてたちが悪いな。


「は、ぁっ……櫂、なに、してた…ぁ……?」


ギシ……とバネが伸縮する音がする。

わざと聞かせてるだろ?

三和、お前の恋人はすごく性格が悪いみたいだ。

俺はアナルに締め付けられる指を再び動かし始めた。


「何だって、いいだろう……っ?…お前こそ、な、にしてるんだ……」


水音が聞こえてしまったりしないだろうか。

不安と期待が混合する。

人のことをどうこういえる趣味ではないな、俺も。


「んっ、ぁっ……、櫂!…ぁ…電話…っぁ…切っ、て…く、れぇ……!!」

「何故……、っ…」


ぞくぞくした。

相変わらず胸は痛むが、それを超える興奮が確かにあった。

奥が疼いて仕方がない。


「三、和ぁ……!」

「なん……っ、だ、よ…?」


俺は録音ボタンを押した。


「は…、わか……ってる、んだ……ろ…?俺が、ぁっ……なに、してるか……んんっ……!!」

「っ……!!そ、れは……あっ!?ひぁああっ!!」


俺も向こうも隠す気はないようだ。

俺はできるだけいやらしく唇を舐めた。


「ぁっ……気持ち、いい…か…?三和ぁ……っ……」

「聞、くなよ……んっ…」


俺に向けられた声だったらよかったのに。

俺のナカで気持ちよくなってくれよ、三和……。


「っぁあ!か、かいっ……!!櫂!……あっ、ふ…も、だめだ、っ……ひ、俺……!!」


俺もだよ三和。

いつもイメージしていたお前の声が、今はこんなにリアルにいやらしく聞こえてくるんだから。

俺は激しく指を動かして自分を攻め立てた。


「んっ、…あ!三和っ……、三和ぁあっ……!!」


三和は俺の想いに気づくだろうか。

それとも俺が自分と同じプレイを楽しんでいるだけだと思うだろうか。


「櫂!?……は、んっ!櫂っ……、櫂っ!!」


自分でイメージするよりも、本物は何倍もの効力があった。

一際大きな声を出しながら、俺はアナルへの刺激だけで射精した。

勢いよく飛んだ精液が胸元を汚し、ソファーや床をも濡らした。

電話口には荒い息づかいだけが残っていた。


「…………っ……」


俺は録音を完了させると、無言のまま電源ボタンを押す。

ぷっつりと三和との関係が途切れ、静かな部屋に漂う青臭い臭いがやけに強く感じた。

だいすき。

だいすきだよ、三和……。

白濁に濡れた胸元を握りしめ、俺は呟いた。


---この苦しさで死ねる---


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三和くん喘がせちゃった。
2012.02.10

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