濃紅の尾がしなり地を叩く。
反動で足元が揺れた。
(ひぇぇ……。こんなのに何度もスタンドされちゃ、叶わないよなぁ。)
櫂の心配そうな視線がひしひしと伝わってくる。
「……っと、オーバーロード!!わ、わかるか?み、三和タイシだ!」
名乗ってみる。
オーバーロードは黒煙を吐くとガラガラと身体を軋ませながら俺の目の前に跪いた。
――――……た…………ード………
「!?」
何か聞こえた。
耳からではなく、頭に直接響いてくるような声……。
これが、オーバーロードなのか……?
俺はオーバーロードの頬の辺りに触れた。
なんだろうこの感覚。
何かとリンクするような、繭に包まれるような不思議な感覚だった。
さっきまで慌てふためいていたのが嘘みたく冷静になれる。
「聞いてくれ、オーバーロード。」
頬をさするとオーバーロードが低く喉を鳴らした。
「今から言うことを、櫂のオーバーロードに伝えてほしいんだ。」
普段ファイトをしない俺。
相当寂しくさせているはずだ。
愛想をつかされていても可笑しくはない。
なのに、こんなにオーバーロードは暖かく、俺に忠誠を誓っている。
「昨晩のことなら誤解だ。櫂は、オーバーロードのことが……誰よりも好きなんだ。」
つきり、と胸が痛む。
俺の指先がオレンジに光始めた。
光がパウダー状に弾けていく。
「好きで好きで、俺の前で泣くんだぜこいつ。」
「三和……」
「俺は櫂が悲しむのなんて見たくない。だからさ、オーバーロード。櫂のところへ戻るように、櫂のオーバーロードに伝えてほしい!」
バサリ。
戦いの勲章が残る大きな大きな翼。
砂埃を巻き上げながら、オーバーロードの身体は宙に浮いた。
巨大な影が俺と櫂を覆う。
オレンジの光は激しさを増し、火の粉のように飛び散った。
「時間だ。帰るぞ!」
気付けば櫂も光の中にいて。
眩しさでオーバーロードが霞んでゆく。
俺の声は届いたのだろうか。
何がなんだかわからないや。
突風が吹き荒れる。
光は激しさを増して白くなり、すぐに暗転した。
――――……ス、マイ…ヴァンガード……
(…………だるい。)
ほんのり甘い匂い。
お気に入りのコンビニデザートの香りだ。
それに、妙にドキドキする香りも混じっている。
シャンプーとも石鹸とも違う……。
「……櫂?」
目眩がする。
身体が重くて、熱っぽい。
気力で瞼をこじ開ければ、白い肌があった。
途端に心臓が速くなる。
「大丈夫か?」
俺の身体は思いっきり櫂にもたれ掛かっていた。
急激に意識がはっきりしてくる。
な、なんだこの状況!?
「わわわわ!」
「危ない!」
離れようと足に力を込めるが、思うように動いてくれずフラついてしまう。
櫂に支えられ、結局もとの体制に戻ってしまった。
「クレイに行くにはかなりの精神力を要する。初めてなのに、無理させた……。」
惑星クレイ……。
リアルな記憶。
確かに感じた空気、手触り、
オーバーロードの声。
確かに俺はドラゴン・エンパイアの地に降り立って、オーバーロードと話したんだ。
何故かほとんど声は聞こえなかったけど、それはたぶん俺が先導者として未熟だからなんだと思う。
「櫂のオーバーロードは……?」
もちろんあの胸の痛みも覚えてる。
かなり、痛かったんだからな……。
櫂は俺をベッドに凭れさせると、カードを1枚突きだした。
強い輝きが眩しい背景。
その真ん中には、櫂の想い人、いや、想いユニットがいた。
心なしか笑っているように見える。
櫂も込み上げる嬉しさを抑えきれないようだし?
「櫂はオーバーロードが好きなんだな。」
「ああ!」
やっぱり俺の予感はハズレてなんかいなかった。
あー、悔しー。
なんだか自分が可哀想になった。
疑問もたくさんあるし、気持ちはぐちゃぐちゃだし、一体どこから整理したらいいんだろう。
納得させてくれよな、櫂。
なんて、櫂のせいにしてみる。
すぐにでも聞きたいことが山ほどあるが、俺はそっと目を閉じた。
今はまだ、眠い。
end
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三和くん報われない/(^o^)\細かい設定はイメージで!一応櫂くんとオバロは両想いです。
2012.01.23
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