櫂が言うには、櫂は昨晩オーバーロードをイメージして自慰行為に浸っていたらしい。

事が盛り上がるにつれて声を押さえられなくなってしまい、そこで「やだぁっ……」とか「らめぇ……」とか「いやぁ……」と喘いでしまったという。

それをオーバーロードは「嫌」と捉えてしまったのかもしれない、ということだった。


(……と言われてもなぁ。)


俺は混乱する頭を整理するので精一杯だった。

物事を理解したり自分なりに解釈することはどちらかというと得意な方だったが、それでも今の状況を飲み込むためにはそれなりに時間が必要だった。

あまりに斜め上をいく事態が立て続けに起こってるんだ。

すぐに理解しろっていう方が無理かもしれない。

それなのに、オーバーロードがいなくなってしまった原因(らしき事)がわかってしまった櫂は一刻もはやくそれを解決したくて仕方がないのだろう。

先程から俺のネクタイを引っ張り「三和!三和!」と興奮している。


「あああ、もう!」

「ひゃ!?」


思わず櫂を抱きしめてしまった。


「ぉ、落ち着けよ櫂……。」


落ち着かなきゃいけないのは俺なんだけど!

櫂はしゅん…と小さくなって俺の胸に収まった。

もちろんカードを握りしめたままで。

俺は自分の鼓動が速くなっているのが櫂にバレている気がした。

気がしたけど抱きしめたまま放さなかった。


(すっげー細い……。髪、綺麗だ……。)


嗅いだことのない匂い。

シャンプーとも石鹸とも違う。

これが櫂なんだ……。

頭を整理するどころかさらに悶々としてしまう。

このまま櫂が寝ちゃったりしねーかな、なんて欲ばっかり出てくる。


「三和……?」


きゅ、と制服を握ってくる櫂の手は白くて綺麗で、いつも触れてもらっているカードたちはしあわせ者だなと思った。


「ん?」


櫂はそっと俺から離れた。

ああ、せっかくの温もりが……。


「三和、デッキを出してくれ。」


俺の思考とは全く違うことを考えている櫂。

そうさせているのは、紛れもなくオーバーロードで。

嫉妬と同時に、本当に櫂はオーバーロードが「好き」なんだな、と頭の隅っこだけが認めていた。

あまり表に出ることがないデッキを櫂に差し出す。

櫂に近づきたくて、櫂と同じ話題で盛り上がりたくてやっとのことで組み上げた俺のかげろうデッキ。

櫂は丁寧にカードに触れ、扇状に広げた。

その中から1枚のカードを俺に持たせた。


「頼む。」


そこには俺のオーバーロードが堂々と威厳を放っていた。


「な、なにを……。」


櫂は自分のオーバーロードを胸に当てる。

俺も同じようにすると、突然突風が顔面を打った。

身体が浮くような感覚。

反射的に目を閉じてしまい、もう一度開けたときには、俺の部屋がなくなっていた。


「な、な………ななな……!」


澄み渡る青い空。

赤茶色の地面は所々ひび割れていて、その隙間から申し訳なさそうに細い草が生えていた。

高い山々が並び、そのほとんどの山肌が丸見えになっている。

時折、山のてっぺんからは火の粉が吹き出し、それに合わせて地面がごうごうと揺れた。

ジャングルなんかで聞きそうな生き物の甲高い声もする。

夏というよりはサウナに近い熱も感じた。


「驚いたか?」


後ろから肩を叩かれる。

振り向けば櫂がいた。

正しくは櫂もいた、だ。

だってそこに立っていたのは櫂だけではなかったのだから。


「ひっ……!」


グルル…とも、ガルル…とも表記できそうな低く喉を鳴らす音が頭上から響く。

カクカクとロボットのような動きでゆっくりと濃紅を見上げれば、予想通り迫力満点、銀色に輝く牙があって。

裏ファイトで見たのとは桁違いにリアルなオーバーロードが俺を見下ろしていた。


「これは一体……!?」


櫂はオーバーロードの脚を撫でている。


「黙っていてすまなかった。」


櫂は俺の手を取りオーバーロードに触れさせた。

硬くて絞まっていてつるつるしてて、ほんのり暖かい。

「本物」だ。


「いつからだったか、突然地球と惑星クレイを行き来できるようになったんだ。わかってるとは思うが、ここはドラゴン・エンパイア、竜たちが集う国家だ!」


自信たっぷりに言う櫂に、さすがの俺でも返す言葉がない。

櫂が涙したりカードからユニットが消えたり惑星クレイに居たりオーバーロードと対面したり、驚くことばかりだ。

収拾がつかないくらいに混乱する脳内を休める間も与えてはくれず櫂は続ける。


「三和、頼む。お前のオーバーロードに説明してくれ。契約しているユニットとしか先導者は話せないんだ。それに時間もない。」

「なっ……。急に言われてもわかんねーよ!俺、どうすれば……。」

「疑問があるなら帰ってからいくらでも聞く。今は、とにかくオーバーロードに伝えてくれ。昨晩のことは誤解だ、と。」


若干顔を赤らめながら言う櫂の言わんとしていることはわかる。

今ここにいるオーバーロードは俺のオーバーロードで、俺としか話せない。

櫂の誤解を説明して、櫂のオーバーロードに伝えるように言えばいいわけだ。


全く疑問ばっかりだ!

本当に頭が痛くなる!

こんなに櫂を必死にさせるオーバーロードが羨ましい!

でも、でも、説明とか嫌なんだけど、櫂がオーバーロードを好きだなんて認めたくないんだけど、櫂が、幸せになれるなら……!

俺は力になりたいと、学校で櫂に言ったんだ……!

理解力のある友人がいてよかったな、櫂!


「櫂、もしちゃんと帰れたら、俺、お前の手料理が食いたい!!」

「三和……」


櫂は俺の手に自分の手を重ねた。


「コクのあるカレーを食わせてやる。」


俺はオーバーロードに向かって両手を広げた。



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