冷たい風が頬を撫でた。
茶色の枯れ葉が道の真ん中に落ち、カサ…と音をたてながらコンクリートを滑る。
見慣れない街並み。
いつからだったか人とすれ違わなくなった。
確か今日は、珍しく用事があったらしい三和が俺に先に帰ってくれと言い、気がつけば俺は1人で帰路についていた。
何を考えてどのようにして今の道に出たかは全く思い出せない。
行く宛もなく引き寄せられるようにただただ歩いていたら、いつの間にかここにいたのだ。
おそらく迷子というやつだろう。
俺はそんな自分が信じられなかった。
これまで自分が方向音痴だと思ったことはないし、初めての土地でも何とか1人で行動できていたからだ。
こんなにも右も左もわからないという状態に陥ったのは初めてのことだった。
せめて人がいれば場所の把握ができるのだが。
グレーの空はこの静けさを一層引き立てていた。
(ん……?)
ふと黒い影が目の前を横切ったような気がした。
それは裏路地に入っていった。
俺は急いで後を追った。
路地には乾いた靴音だけが響いた。
「おい……!」
裏路地は決して狭くはないが薄暗く、さらに人の気配を感じさせなかった。
裏ファイトに続く道の方が安全に思うくらいに、ここは異様な空気を醸し出していた。
(どこ行った……?)
てっきり人影だと思ったのだが、猫か何かだったのだろうか。
漸く自分の居場所がわかると思ったのに……。
仕方なく来た道を引き返そうと、俺はくるりと向きを変えた。
(あれ?)
間違いなく通ってきた道を引き反そうとしているのに、目の前にはまったく別の光景が広がっている。
あまりのギャップに脳がついていかず目眩がした。
同時にもやもやとした不安が押し寄せ、俺はその場に座り込んだ。
迷宮だと思った。
一生この地をさまようのではないかとさえ思えた。
色のない空が怖かった。
「三和……。」
いつも側にいる俺の温もり。
俺が何処にいようと三和は俺のところへやってくる。
「やっぱりここだったな」と言ってムカつくくらいの明るい笑顔を見せるんだ。
俺は素直ではないから、そんな三和をいつも軽くあしらってしまうが、本当は嬉しくて口許が緩みそうになってしまうからわざとツンツンしてしまう。
冷たい態度をとっても三和は俺のことをわかっている気がして、だからこそ安心してできることだった。
なぜ安心なんてするのかはわからない。
どういうわけか……俺は三和に甘えてしまう。
本人は甘えられているなんて全く思っていないのかもしれないが。
いつまでもここにいても進まない。
俺は不安で押しつぶされそうな胸にそっと手をあて立ち上がった。
(―――――!?)
途端に視界が暗くなりバランスを崩す。
後ろに数歩下がったところで何かに支えられ、俺はすぐにそれが人であることに気づいた。
荒い息づかいが先程までの静けさに雑音となって響いてくる。
視界を覆う、おそらく布であろうものを外そうと手を伸ばすと、俺の両手は硬い紐によって後ろ手に束ねられてしまった。
「なっ……!」
1人じゃない。
少なくとも2人はいる。
あまりに予期しない事態が立て続けに起こり俺は頭が真っ白になった。
抵抗とか疑問とか、そういうものが沸いてきたのは埃っぽい臭いが鼻につき、頬が冷たい床に押し付けられた時だった。
視界は遮られているのにも関わらず、俺は倉庫か廃墟のようなところに連れてこられたんだと思った。
そして、これから自分がどんな目にあうかを直感的に察してしまった。
俺の身体を押さえる力からして、見えないこいつらは男なんだと思う。
だが、複数人いるはずが話し声は一切聞こえてこなかった。
それが逆に不安と恐怖を煽り、勝手に身体が震えてしまう。
自分の歯の鳴る音をどうしても止めることができなかった。
「っ……」
髪を引っ張られ、無理矢理顔を挙げさせられる。
微かなアンモニア臭を感じ、ああやはりそういうことかと絶望と諦めを感じた。
ふにゃふにゃとしたそれが唇に打ち付けられ、下半身ではベルトを外される音がする。
(いやだ……。)
声に出したら臭いのもとであるそれが突っ込まれるような気がして俺は何も言うことができなかった。
すると鼻を摘ままれてしまい、反射的に口を開けると最悪なものが容赦なく侵入してきた。
「んぐぅ……!」
汚くて臭くて今すぐにでも吐き出したいが、それは徐々に膨張して俺の口内をいっぱいにした。
咬みちぎってやろうと思ってもうまく身体が反応してくれない。
頭をがっしりと捕まれ乱暴に動かされる。
固いそれが何度も喉を突いて苦しくて苦しくて仕方がない。
息ができなくて、こわくて、痛くて、つらくて、そういう想いが涙となって溢れた。
どうしてこんなことに……。
考えても考えても答えは出てこなかった。
真っ直ぐ自宅に帰らなかった自分を恨んだ。
いつの間にか下半身は裸にされ、冷たい風に内腿が震える。
三和にも見られたことがない部分が見ず知らずの他人の目の前に曝されていると思うだけで、さらに涙が溢れてくる。
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