スーパーで買い物ができないとなると足りない材料は一体どうやって手に入れればいいんだろうか。

と、悩んだのはほんの一瞬だった。

なぜなら残りの材料を集める方法に見当がついていたからだ。

購入するだけが方法じゃない。

現に今手にしているベリー類と卵は貰ったものなのだ。

誰かに会えればあっさり材料が揃うような気がした。

なんかそういう流れだし。

ここから一番近い知人に会えるポイントは裏ファイト、そうジュンの所だ。

俺は何の迷いもなく裏路地へと足を進めた。





「ジュンに会いたい。」


いつものメンツが揃っている中、俺がそう呟くとどこからともなく鎖の鳴る音が響いた。

よかった、俺を倒さないとジュン様には会わせないぞ的な展開はないようだ。

今日の俺にはタイムリミットがある。

そういった手間が省けるのは嬉しいことこの上ない。

俺は自ら鎖の音がする方へ向かいジュンとの対面を図った。


「やぁ、櫂。」

「久しぶりだな、ジュ……っ!?」


姿が見えたかと思えば言い終わらないうちに片手には鎖が絡み付いていた。

グッ、と引き寄せられ密着しそうなほど近づいてしまう。

なんとか卵を落とさずに済んだのにはひと安心だ。


「なにコレ。差し入れかい?」


ジュンが俺の腕の中を覗き込んでくる。


「なぜ俺がお前に差し入れる必要があるんだ。そんなことより放せ。そして材料を出せ。」


何かしらはある前提で言ってみるものだ。

ジュンは、材料?と首をかしげるとすぐに、ああ!と思い出したように俺を奥へ案内した。

鎖をはずすことができず引っ張られるような形になってしまうのが癪に障る。

ジュンがいつも構えているであろうそこには段ボールがいくつも積み上げられていた。


「たまに届くんだ。キングってすごいだろ?」

「ふん。」


ジュンはいつだったか三和に向けたあの意地悪な笑顔で言った。

キングと言えど以前俺に思いっきりヴァンガードファイトで負けているが、今それは言わないでおこう。

面倒が増えては困る。


「で、何がほしいの?」


これだけ様々な段ボールがあればケーキに関する材料のひとつやふたつはあるだろう。

しかし、とりあえず材料はある程度集まっているため、俺は足りないあの材料を要求することにした。


「生クリームとか、あるか。」

「生クリーム?」


俺は言ってすぐに後悔した。

生モノなんてこんなところにあるわけがない。

もっと日持ちがしてこの場で食べられるようなものしかここにはないのではないか。

ジュンは段ボールを漁り、あった!と声をあげた。

え、あるんだ。


「これだろ?」


ドヤァと言わんばかりの表情で生クリームを見せつけてくる。

と同時に腕に絡み付いていた鎖がほどけた。

俺はその手で受け取ろうと手を伸ばす。

しかし今度はジュンにその手首を掴まれてしまった。


「条件がある。」

「何だ。」


面倒だなと思いつつも、生クリームが手に入るなら、と俺はその条件を聞くだけ聞くことにした。


「この生クリームと見合うものをくれないか?等価交換ってやつさ。」


等価交換か。

確かにもっともな条件かもしれない。


「いいだろう。」


俺がジュンにあげるものは……


三和だ。
俺だ。









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