カムイだ。

付人のようにいつも一緒にいるふたりの姿はなく、なにやら大きめの箱をひとりで浮かれ気味に運んでいる。

俺に気づいたカムイは、げっ、と言わんばかりに一気に顔をしかめ、棘のある声で話しかけてきた。


「なんだよ櫂。公園はこっちじゃねーぞー。」


何もしていないのにこの言われようとは……。

本当に可愛いげのないガキだ。

そんなことより俺が気になったのはカムイの持っている箱だ。

カムイが運ぶには大きすぎるその箱の中には、艶々と輝くいちごがところ狭しと並んでいたのだ。


「……やらねーぞ。」


俺の視線に気づいてか、またしても可愛いげのないことを言う。

俺だって今日でなければ「そんなものはいらん」の一言で終わらせることができるのだ。

しかし今日だけは、今日に限っては全くの逆だった。


「カムイ。そのいちごを3分の1ほどくれないか。」

「はぁ〜!?やらねーって言っただろーが!!人の話聞けよバ櫂!!」


マイクを通したかのような大声で叫ぶカムイ。

想定内の反応だ。

あっさりOKされる方が気持ち悪い。

俺はポケットから携帯電話を取り出すと、一枚の画像をカムイに見せつけた。


「なっ!?これは、エミさんんん!!?」


正確には、カードキャピタルで森川とアイチがファイトをしている隙間から見える空間で戸倉とお喋りをしている先導エミだ。

森川の閉める割合のさらに5分の1程度しか彼女は写っていない。

前に三和がふざけて撮ったものなのだが、勢いに任せて消去しなくてよかった。

こんなに小さな画像ひとつでカムイの心は動いてしまうのだから。

恋は盲目とはよくいったもんだ。


「いちごと引き換えにこの画像を拡大コピーしてやろう。」

「くっ……!エミさんを人質にとるとはどこまでも性格の悪いやつだぜ!!ほ、本当だろーな!?」

「本当だ。」


カムイはどこからともなく小さめの箱を取り出すと、いちごをせっせと移し始めた。

条件である3分の1の量よりも若干多く詰めている。


「……いいのか。」


俺だって鬼じゃない。

カムイだって使う予定があったかもしれないいちごを貰いすぎてしまうのはちょっぴり申し訳なく思う。


「ふん。エミさんのためとなっちゃあ仕方ない。約束、忘れんなよ!!」


べーっと舌を出したカムイは軽くなった箱を抱えてさっさとその場を去っていってしまった。

何はともあれいちごをゲットした。

俺はいちごの輝く箱を小脇に抱えて、再びスーパーへと歩き始めた。











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テーマ「人外ファンタジー」
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