アイチだ。
相変わらず自信のない歩き方をしている。
片手にはビニール袋がぶら下げられていた。
俺に気づいたアイチは頭から生えた青いアンテナを揺らしながらこちらに近づいてくる。
「かっ、櫂くんっ……!」
わずかな距離であるにも関わらず、アイチはきゅっと胸元を握りしめ頬を高揚させている。
「偶然だね。こんなところで会えるなんて、なんか、すごい……。」
大きな瞳を左右に動かしながら辿々しく言葉を並べる。
もう少し話に付き合ってやりたいところだが、今日はアイチのスローペースに合わせている余裕はない。
こうして立ち止まっている今も時は夕方に向けて刻一刻と進んでいるのだ。
「悪いがアイチ。話なら後で聞く。」
「ま、待って!!!」
立ち去ろうとする俺の腕を掴んで放さない。
普段は内気でおとなしいアイチだがこんなときばっかり強引だ。
切なげに眉を下げて潤んだ瞳で見上げられては、このまま立ち去るわけにもいかなくなってしまった。
「手早く頼む。」
俺はアイチに向き直った。
「僕、櫂くんのこと探してて、公園にいなかったから、あ、あとカードキャピタルにも……。」
急かしたせいだろうか。
かえって話がまとまらないようだ。
「つまり、何だ。」
「これ!櫂くんにお裾分けしたくて……!」
差し出された袋を受け取り中身を確認する。
紅や紺の輝く宝石。
そこには粒の揃ったラズベリーとブルーベリーがふんだんに詰め込まれていた。
「これは……。」
「近所の人からいっぱいいただいてね、家だけじゃ食べきれないし……。迷惑だった?」
迷惑?
むしろ逆だ。
こんなに綺麗なベリー類はこの辺ではまず手に入らないだろう。
これがあればかなり豪華なケーキが作れそうだ。
レンも喜んでくれるに違いない。
「ありがたく受け取っておく。」
「…っ、うん!!」
中3男子にしてはあまりに乙女すぎるポーズをとりながら、アイチは満面の笑みを浮かべた。
またね、と手を振るアイチに片手で返事をし俺は再びスーパーへと歩き始めた。
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