「誰あの人?」

「わー、ちょー美人ー!」

「転校生かもよ!」


いつも以上に騒がしい教室。

女子が窓の外へ顔を出しながら、なにやら楽しそうにしている。

俺には関係ないことだ。

今はちょうど昼休みで、三和が飲み物を買ってくるのを俺は自分の机で頬杖をつきながら待っていた。

退屈すぎて欠伸が出る。

しかし、そんなことをいってられるのも三和が戻ってくるまでの数分間だけだった。


---非日常---


「櫂ーーっ!!!」


凄い勢いで三和が教室に入ってくる。

いや、飛び込んできたに近いだろう。

三和は机の上に、パックの飲み物を2つ転がした。

いちごオレとバナナオレだ。

甘くないやつがいいっていったのに……。

強く握っていたのだろうか、紙パックが若干へこんでいる。


「どうした、三和。」


俺はいちごオレの方に付属のストローを刺した。

……甘いな。


「なに呑気にしてんだよー!レンだよレ、ン!!」

「レン?レンがどうかしたのか。」

「来てるんだよ!」

「?」

「あっち!」


ビッ、と三和が窓を指差す。


まさか。


「すまない、空けてくれ。」


女子の群れを掻き分けて窓の外を見る。

きれいに整備されたグラウンドの真ん中には、赤い髪を揺らしながら辺りを見回しているやつがいた。

レンだ。

なぜかここの制服を着ている。

冷や汗というものをかいたのは何時ぶりだろう。

レンはこちらに気付いたようで、ひらひらと手を降ってきた。

その瞬間、俺は一気に階段を駆け降りていた。

砂埃を巻き上げる勢いでレンの目の前へ行く。


「…ッお前!何してんだ!!」

「何って、ちょ、ぅゎ!」


パシ、とレンの手首を掴んで昇降口へ引きずり込む。

これで上から刺さる視線が遮断された。


「乱暴ですね……。」

「帰れ、馬鹿。」

「そんな薄情な。あ、似合いますか?」


その場で一回転してみせてくる。

髪がふわりと浮いて、甘い香りがした。


「ふふ。テツのお手製です。」

「不法侵入だぞ。」

「櫂が引っ張ってきたんじゃないですか……。まあ、僕だって高校生をやってみたかったんです。」


そう言うレンの表情がどこか悲しくて、俺は何も言えなかったと同時に少し申し訳なく思った。


「……それに、恋人にも会いたかったしね。」


俺の顔を覗きこんでくる。

頬が熱くなったのがわかった。

そんなことを言われたら、離れるのが惜しくなってしまうではないか。

さっきは帰れと言ったが、今グラウンドにレンが戻ったらまた注目を集めてしまうに違いない。

昼休みが終わるまでは大人しく待機していた方が良さそうだ。

俺は、レンが留まる理由を見つけ少し嬉しくなった。

とはいえ、授業が始まるまでこの場にいるわけにもいかない。

体育があるクラスがあれば、外に出る何十人もの生徒と鉢合わせすることになるからだ。


「仕方ない。移動するぞ。」

「はーい。」

「間延びさせるな!」

「ふふ。」


レンを来客用のスリッパに履き替えさせ、そっと廊下に出る。

誰もいないことを確認し、さらに奥へと進めば、突き当たりには階段がある。

電気もつけられていない静かなこの階段は屋上へと続いている。

風が冷くなってきたこの時期は、ほとんどの生徒が教室で過ごすため、屋上は使われていないのだ。


「鍵、開いてるといいんだけどな。」

「うわ、今変な虫いましたよ。」

「聞けよ。」


何度も狭い踊り場を抜けると、屋上へ繋がるドアの前へ着く。

そっとドアノブを回し、手前へ引く。

しかし、ガッ、と遮られる音がするだけで、ドアは動かなかった。

何度試しても結果は同じで、残念な気持ちになる。


「あの……。」

「他、探すか。」

「押って書いてありますけど。」

「…………。」




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