雀ヶ森といえば、誰もが知っている大豪邸の若旦那である。

お城と呼ぶに相応しいその佇まいには、数十人の使用人が忙しなく働いていた。

しかし、すべての使用人が従順なわけではないのである。


---躾---


「櫂。そこに座りなさい。」

「断る。」


ここは僕の仕事部屋だ。

床にはチリひとつない赤い絨毯が敷き詰められ、磨き抜かれた大窓の前には高めの背もたれがついた座り心地の良い椅子がある。

さらにその椅子の前には、これまた大きな机が構えられていた。

僕はここで頬杖をつきながら、ひとりの使用人を説教中だ。

名前は櫂トシキ。

調理担当のシェフなのだが、言葉遣いは乱暴で全く僕の言うことを聞かない。

指定の制服さえも着用せず、僕の我慢も限界だ。

こんなヤツはやめさせた方がいい、と他の使用人たちは言う。

でも僕は櫂の作る料理が好きだし、容姿も好みだから絶対そんなことはしない。

櫂が従順になってくれれば一番良いんだけど、と思う。


「君は雇われてる身なんですよ。もう少し態度をわきまえなさい。」


この台詞も何度目になるかわからない。

櫂はツンとそっぽを向いている。


「そんなに俺が気に食わないなら解雇すればいい。」

「…………。」


櫂は、僕がそうしないのをわかっている。

いつもこの調子で交わされてしまうのだ。

しかし今日はこれじゃ終わらない。

パチン、と指を鳴らすと正面のドアからテツが現れた。

テツは櫂とは真逆で、僕が最も信頼している使用人だ。

雇い始めた頃から、その仕事ぶりは素晴らしく、テツにとっては天職ってやつなんだと思う。


「は、レン様。どうなさいましたか?」

「あの部屋、用意できる?」

「はい。そろそろ使われる頃かと思いまして、すでに準備は整っております。」

「さすがだね、テツ。おいで。いいこいいこしてあげる。」


テツが隣で跪く。

硬めの髪を撫でながら、僕は更なる要求をした。


「あそこに生意気な猫がいるでしょ?あいつをあの部屋に連れていってよ。」


テツの行動は速い。

失礼します、と僕の前を去ると、櫂の腕を掴んだ。


「いっ……。おい、離せよ。」


華奢な櫂がテツの力に叶うはずもなく、あっという間に部屋の外に連れ出されてしまった。


「ふふ……。楽しみですね。」




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