世間では勝手に俺の自宅を公園のベンチだとか言っているようだが、それは誤解だ。
あそこはただの昼寝スポットである。
ひとりで住むには少々広いマンションの一室。
ここが俺の自宅だ。
決して別荘ではない。
---君が儘---
室内の空気は冷たい。
昼間は家にいないことが多いため、カーテンは閉じられたままだ。
布の隙間から漏れるオレンジの光が、外が夕焼けであることを知らせた。
俺が帰宅の度に目にするのが、この部屋の光景だ。
そして、ついネガティブな思考になってしまいそうなこの光景から逃れるために、テレビと電気をつける。
部屋着に着替えると、テレビの前にずっしりと構えられたソファーに寝そべった。
人の話し声とは、どうしてこうも心地よいのだろう。
公園のベンチが昼寝に最適なのも、人の声が絶えないからなのかもしれない。
俺は、徐々に押し寄せてくる睡魔に身を任せた。
身体が浮くような感覚。
少しでも気を抜けば、今にも夢の中へ旅立てそうだった……のだが。
ピンポーン……。
人が訪ねてくるなんて珍しい。
だが今は無視しよう。
どうせつまらないセールスかなんかだ。
ピンポーン……。
…………。
ピンポンピンポンピポピポピポ!!
しつこい!!
「誰ださっきから!!」
黙示録の炎で焼き尽くす勢いでドアを開けると、そこには赤い髪のあいつがいた。
「ふふ、来てしまいました。」
「レン……。」
雀ヶ森レン。
俺の秘密の恋人だ。
ファイト中でなければ、その性格はまるで子供のよう。
独特の色気から幼く無邪気な面が見え隠れするような、不思議なやつだった。
「どうしました、櫂?取り込み中でしたか?」
つん、と人差し指で俺の股間をつつく。
「馬鹿かお前は……。いいからさっさと入れ。」
言い終わらないうちに、レンはそそくさと部屋へ上がり込み、さっきまで俺が寝ていたソファに目一杯深く腰かける。
俺はしっかり戸締まりをし、レンの元へ向かった。
「櫂も座りますか?僕の上に。」
「断る。」
とはいいつつも、レンのすぐ隣にぴったりとくっついて座る。
レンが突然訪ねてくるのは初めてじゃない。
時々、本当にたまに、こうして俺のところへくるのだ。
恋人の訪問が嫌なわけがなく、俺は内心浮かれていた。
人を寄せ付けないような、あの暑苦しいコートも、俺のところへ来るときは羽織ってこない。
そんな些細なことがレンとの距離を縮めているように感じた。
「テレビなんて久々に見ましたよ。あ、僕です。」
ほら、と画面を指差す。
前回の大会の優勝者コメントが再放送されているようだ。
「相変わらず生意気な……。」
「そうですか?」
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