※1万打リクの全力で雪男を口説く燐の逆バージョン



突然だが兄さんを全力で口説くことにした。
あまりにも鈍感なものだからしびれを切らしたともいう。

僕がこんな劣情を抱いていることはきっとびっくりするだろうから、毎日少しずつ僕の言葉がまるで毒みたいに兄さんの身体の中を犯していけばいいと思ったんだ。
僕の言葉でいっぱいになればいい。

それがこんなにも手強い相手だなんて思わなかった。
女の子は少し優しい言葉を掛ければだいたいは落ちるのだけれど、僕には何の意味も無い。
兄さん以外なら全部一緒なんだ。

初恋は実らないっていうけれど、そんなのたまったもんじゃない。
どれだけ兄さんを愛し続けたと思ってるんだ。
そんなことが起きようなら何十年という時間返してもらいたいものだ。
しかし、そんなへまをするほど馬鹿ではない。

兄さんの一番の理解者という地位も獲得し、何より唯一の血縁者でもある。
強力な武器であると同時に強力な壁でもあるのだが。

「そういうのは女の子に言えよな」

軽快な鼻歌と一緒に流されたのは何度目だろうか。
いくらなんでも限度があるだろうが。
流石兄さんとでもいうべきか。

そんなところも愛しく感じてしまうのは一種のビョーキだ。


さらりとかわされてしまったのでタイミングを逃して未だに兄さんから視線を切れずにいたりする。
ベットで寝そべる彼は僕のSQを手に枕に頭を預けて尻尾をぱたぱたと揺らしていた。
想いよ届けとじっと見詰めていると視線に気付いたのか、顔をこちらに向けて訝しげに見た。
考えるように眉を寄せると、「俺に言ったって何もでないぞ?」と一言。


「兄さん…今まで何だと思ってたの?」

「練習?」

「は?」

「え、違うの?」

嘘であってほしいと願っていたことが確信に変わった瞬間だった。
兄さんは思った以上に鈍感でど阿呆だ。
驚愕のあまり思わず狼狽してしまう。

「ち、違うに決まってるじゃないか!僕は本気で兄さんのことが好きなんだよ」

「雪男…」

ぽつりと呟くその瞳には光の加減か薄く透き通りうるんでいるようにも見えた。
その顔は反則だ。
いや、これは脈ありなのだろうか。
どき、と胸が跳ねる。






自然と手は動き、兄さんに触れようと―――



「そんなに兄ちゃんに甘えたいのか!しょうがないなー、今日は久しぶりに一緒に寝てやるよ!」

「は、兄さん、ちょっと!」


うきうきとという言葉を表したかのように上機嫌になった兄さんは掴んだ僕の手をそのままに己へと引き込んだ。
そして事態を把握した時には兄さんの顔が鼻先がそこにはあった。
へへーん、と得意げに鼻を鳴らす彼は背中に腕を回すと、まるで子供をあやす様にぽんぽんと一定のリズムを刻んだ。

「お前が怖い夢みたーって泣いてた時よくこうやってしてやったっけなぁ」

そうしみじみと語る彼の言葉に、何故か泣きたくなった。
ああ、もう。
どうしていつもこうなんだ。

「……」

途端に黙った僕を心配しているのか、覗きこんできた。
悔しいけどやっぱり可愛い。
思いが通じ合うなんて待たずここで食べてやろうか。
そんなことができる勇気は残念ながら持ち合わせていないのはわかっているけれど。

「兄さん」

「なんだ?」

「好きだ」

「うん、俺も好きだよ」

満足げにお互い顔を見合わせて目を細めた。


こういうのも悪くは無い。


110919
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3位ほのぼのでした。

(title)Chien11

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