※chiaki様リクエスト
15禁 しえみに嫉妬して襲う雪男で雪燐





授業を終えた雪男はすれ違う講師に挨拶を交わしながら廊下を闊歩していた。
幾つも並ぶ教室へ続く扉を横目に見とめつつ、帰路につく。

本来なら自室への鍵を使えば一瞬なのだが、頼りっぱなしというのもいささか考え物だと思い、遠回りになってしまうが徒歩で向かおうと考えた。
実際は、ただ新鮮な空気を取り入れたかっただけである。

「はぁ…」

意識せずに出たため息に重症だとまたため息をつきそうになるのを慌てて飲み込む。
息が詰まってしょうがない。
まだ慣れない授業に肩に力がはいりすぎてしまうようだ。

こんな時は兄さんのことを考えよう。
自室で待っているであろう燐のことに思いをはせる。
ただいま、と言っておかえりと迎える兄さんを抱き締めたい。
そしたら疲れなど吹き飛ぶだろうと考えて、朗らかな笑みを浮かべた。


ゆったりとした動作で歩き、中庭に差し掛かると大きな噴水が現れた。
そこに見知った二人のシルエットを見つけ、声をかけようと大きく足を踏み出そうとしたが思い留まる。

噴水の端に仲良く並んで腰を掛ける燐としえみは話す声こそ聞こえないが、楽しそうに笑いあう姿ははっきりと柱の影にいる雪男からは見ることができ、その雰囲気に思わず眉をひそめた。




まるで恋人同士みたいだ。



高揚したはずの気分が一気に落ち込むのを感じた。
自分と並んでもただの兄弟にしか見えないのは明らかだったけれど、今はそれに腹が立った。

(僕のなのになぁ…)

燐は赤くなったり照れたりと忙しなく表情をころころ変えた。
それを眺めるのは好きだが、その相手が自分では無いことに顔が僅かに歪む。
一喜一憂するのは僕の言葉だけでいいのにと考えて、雪男は自分の恐ろしい考えに思わずぞっとした。

それでも、それは紛れも無い本心であった。



自分だけの言葉を聞いて。
自分だけを見て。
自分だけに愛されて。



自分、自分、自分。





ねっとりとした腹の底に渦巻く醜く黒い独占欲にはは、と乾いた笑いを溢した。
上着の裾がぐしゃりと皺を作る。

死角になっている柱の陰から身の乗り出した。
近づく躊躇われたが、頭を振りかぶると今度は迷うことなくずんずん進んだ。

「兄さん、しえみさん」

座る二人に愛想よく笑って、できるだけ優しく声をかけた。
わずかに口元が引きつっていたのに気づき、内心舌打ちをする。
蠢く独占欲が無くなったわけではないのだ。
現に笑いあう二人の姿が視界に入る度にちくりと胸が痛むのを認めないわけにはいかなかった。




「うわっ、雪男いつの間に!」

びくりと身体を大きく揺らして振り返った。
目を見開き、狼狽した燐の視線は雪男を捕らえることなく、右往左往動いた。
そんな様子にしえみは笑みを浮かべると、視線を雪男に移してまた笑って返した。

「雪ちゃんこんばんわ」

「こんばんわ。…兄さんどうしたの?」

びくびくと雪男の一挙動作を気にしする燐に、雪男は苦々しい気持ちになった。
そんなに自分に聞かれたくなかったのかと思い、唇を噛んだ。
未だ訝しげにじっと見詰める雪男の視線に燐は「な、なんでもない」と仰仰しく顔の前で片手を大きく左右に振った。

「慌てすぎだよ。大丈夫だって」

「…でもよ」

ぽつり、と呟き若干顔を俯き片手で顔を覆った燐は、首元から耳まで真っ赤に染まっていた。
その横でしえみは笑みを一層深くした。



(…なに、それ。恥かしくなるようなことをしえみさんに言ったの?それとも言われたの?)





一気にかっと頭が熱くなり、思わず燐の片手を掴んでいた。
今更引っ込めることもできず、驚く声も上げる暇も与えないでぐいと強く引っ張る。
ぐらり、身体は重力に逆らうことなくと雪男側に傾き、飛び込む体勢になった燐を受け止めるとそのまま胸元引き寄せた。

「わっ、馬鹿、何すんだよ!」

「突然すいません。兄さんを借りていきますね」


ぎゃあぎゃあ、悪態をつく燐をそのままに、苦笑しつつ目を向けると、にっこり見詰め返されまるでいってらっしゃいと後押しでも受けた気がした。
それを確認して軽く一礼すると振り返らずに、燐を引きずり自室に向かって歩みを進めた。









笑みを絶やさぬまま、兄弟の後ろ姿を見送ったしえみはゆっくりと目を閉じた。
脳裏に移るのは、雪男が現れる以前に燐と交わした会話の数々。
どうなるかハラハラした時もあったが、確信を得ることができた。

「本当に好きなんだね」

うっとりと、呟くと同時に目を開いた。
もう後ろ姿を見つけることはできなかった。

髪の後ろから飛び出てきた使い魔が嬉しそうに辺りを舞って見せる。

「にー!」

「うん、うん。そうだね」





「二人なら、きっと大丈夫だね」

再び思い出して、気付けば頬が緩んでいた。







110805
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続くよ!
しえみちゃんは二人の恋を応援してます。
雪男はポーカーフェイス笑

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