※皐月様リクエスト
喧嘩→仲直りで最後はあまあまな雪燐








喧嘩して、もう一週間も口を利いていない。
それだけで心はぽっかり穴が開いたようで居心地が悪かった。

雪男が出張に出発する前にその喧嘩は勃発した。

発端は俺が勉強せずにだらだらしていたことから。
見かねて雪男が注意して、俺が反論して。
誰に非があるかなんて一目瞭然である。
しかし、俺はおかんのようにいちいちぐちぐち説教をたれる雪男にイライラして思わずけんか腰になってしまったのだ。

翌日には何事もなかったかのように接するのだが今回は違った。
それは雪男が出かける直前の出来事であり、互いに譲らず喧嘩別れをしてしまったのだ。
きっと双方謝るのは今しかないと十分承知していたはずだが、怒りで熱くなった頭では冷静にそんなことを考えられるはずもなかった。

ふ、と虚ろな眼差しで向こう側の誰もいないベットを見つめた。
雪男の性格が現れているのか、シーツはしっかりの畳まれきちんと整頓されている。

一方自分のベットを見やると、ぐちゃぐちゃに散らかっていて綺麗とは言い難い。

子どもだな、と思い肩を落とす。
甘えてばかりじゃいけないのに。

「…はぁ」

何度目かわからない溜め息を漏らした。
もうこの部屋は溜め息でいっぱいなんじゃないかと考えて苦笑する。



そして、幾度と無く喧嘩をしてきたが、改めて考えると俺から謝ったことはなかったと思い当たった。
いつも、雪男から。
甘えてばかりだったんだ。

喧嘩別れをしたため、メールや電話で連絡を取るのもためらわれたが、今日も朝から謝ろうとはした。

たった携帯を2、3回操作するだけのことなのだ。
さほど難しいことではない。
しかし、それが実現することはなかった。

変な意地を張ってしまうのだ。
そして、最悪の未来が頭の中に張り付いて離れない。
雪男の反応が怖くてたまらなかった。



付き合ってられないよ、だとか。
兄さんにはもうがっかりだよ、とか。




別れよう、とか。


呆られて、捨てられる。
そんなことばかりが頭を回る。

ぐるぐる、ぐるぐる。
負の感情が身体の中を巡る。

起きていれば雪男の事が必ず頭の隅に存在して、意識しなくても考えてしまった。
勝呂にまで心配されたくらいだ。
きっとひどい顔をしていたのだろう。



あともう一週間生きてるか死んでるかわからない生活を送るんだと思うと憂鬱でしかたなく、再び息を1つ吐いた。

もう考えたくない、と燐は逃げるように頭から布団に潜り思考をシャットアウトした。





聞きなれた着信音で目を覚ました。

ぼんやりと霞がかった思考の中、なんとか携帯を操作して相手を確認する。
奥村雪男、という文字を見た瞬間一気に目が冴え勢いよく飛び起きた。
震える手で通話ボタンを押せばピという軽快な音とともに、通話が始まる。


「…雪男?」

おそるおそるといった様子で声を出せば、返ってくるのはずっと待ち望んだ声。
しかし、嬉しいはずなのに俺の気持ちは沈んだままのように感じた。

『うん、そうだよ兄さん』

久しぶりの雪男との会話に声が少し震えた。
話したかったけど、話したくなかった。

謝罪の言葉を述べようにも、喉の奥につっかえて出でこず、きっとプライドというくだらないものが蓋をしている。

「何の用?」

気持ちとは裏腹に素っ気無い言葉だけが飛び出る。

『…いや、別に用はないけど』

「ならかけてくんなよ」

『そうだよね。ごめん、兄さん』

悲しみを含んだように聞こえて、じとりと嫌な汗が出た。

『ただ声が聞きたかっただけなんだ』

そう聞いてハッとする。
雪男が歩みよってくれているのに、どうして素直になれないのだろうか。
自然と口からでるのは喧嘩腰で反発する言葉ばかりで。

「…な、なんだよそれ」

『兄さんは違うみたいだね。僕は少し寂しいとか思ったんだけどな』

「…!それは…」

『じゃあ、迷惑みたいだから切るね』

「ちがっ…!」

違う、と否定しようとしたがそれは叶わず、通話は終了しプープーと機械的な音が聞こえた。

「…っ、俺のばか」

力が抜けた手からするりと携帯がすべり落ちる。
目頭が熱くなり、思わず両手で顔を覆えば指の隙間から涙が伝った。


「雪男っ…ごめん、会いたい…」

ごめん。
ほんとごめん。

次々と後悔の念が押し寄せる。
なんで俺はこんな性格なんだろ。
なんであんなこと言っちゃったんだろ。

言葉にしなければ伝わらないのに。

「寂しい…」

言葉にすればプライドで覆い隠していた気持ちがどっと溢れた。
寂しい、会いたい、寂しい。
ずっと気付かないフリをしていたけどもう限界だったのだ。

もう外は暗く、俺の気持ちを表したように部屋は沈んでいた。

電気を付けなれればと頭では思っても身体が動かず、身体は深く沈みこむ。
もうこのまま浮上しない気がした。


ふと、暗いはずの部屋に小さな明かりが漏れていることに気付き、視線をそちらに向ければ―――


いるはずのない雪男が立っていた。


「……兄さん」

「…おまえなんで此処にっ」

「無理言って1週間早くしてもらったんだ」

「さっきそんなこと一度も言ってなかったじゃねぇか!」

「言おうと思ったよ、でも兄さん僕のことなんかどうでもいいみたいだったし」

「…っ」

言い返す言葉が見つからず、視線を雪男からそらし遠くを見つめる。
つっぱねて、後悔して、泣いて。
ばっかみたいだ。

月明かりに照らされて雪男の顔の輪郭が部屋に浮かびあがる。
見えた雪男の表情は、何かを耐えるようでひどく切なげであった。
目の下には若干隈ができていて、端正な顔立ちを乱していた。

俺がこんな顔させてしまったのか。

もうプライドとか、そういうくだらないことはどうでも良くなってしまって、いつも通りに笑いあいたいと一心に思った。
ぐずぐずに解けて、つっかえがなくなり息苦しさがなくなったような気がした。

「雪男、ごめん」

「兄さん…」

「俺、変な意地張っちゃって、雪男が電話くれたのに反発して。ほんとごめん」

あれだけ詰まっていた言葉あっけなく口から出た。

「僕もごめん」

「何で雪男が謝るんだ?」

意味がわからず、頭を傾ければ雪男は近寄り、ベットの端に腰掛けた。
ギシと、二人分の体重にベットが悲鳴を上げた。

「兄さんが素直になれないってことは知ってるのに、僕いじわるした」

「なんだよそれ…」

「それにね、聞いてたんだ。電話してる時扉近くにもういたから」

「え!」

知らなかった事実に目を丸くし、口をぱくぱく開閉させた。
自分の言動を振り返って、顔を赤くした。

「雪男、会いたい、寂しいってね」

「ば、ばか、も…言うなよ…!」

じっと穴が開きそうなほど見つめられ、居心地が悪くなり視線を落とす。
顔に熱が集中するのがはっきりと感じられて、顔を上げることができなかった。

「ふふ、だったあまりにも可愛かったから」

「〜〜〜…!!」

耳元で甘く囁かれ耳までも赤く染まる。
そして、去り際に耳たぶをちゅ、と吸われれば肩が大げさに跳ねて、また羞恥に顔を染めた。

「普段からあのくらい素直だといいんだけどな」

「俺だって、素直になるときぐらいあるんだからな!」

その言葉に抗議しようと顔をあげれば思っていた以上の至近距離に雪男の顔がありたじろぐ。
それでも背けるのは嫌で我慢して見据えた。

「無理しなくていいからさ。今回はあれで十分だよ」

楽しそうに目を細められて、なんだか負けたような気がした。
悔しくて、気が付けば口から言葉を溢していた。

「雪男抱きしめろ!」

ぶっきらぼうに言えば雪男は肩を揺らして笑い始めた。

「ぷっ…はははは!」

「なんだよ、笑うなよ…!!」

俺の懇親の甘えだったのに。
たしかに可愛くないとは思ったが、こんなに笑うなんてひどいだろ。
きっと睨んでも全く効果は無いようで、笑い続ける。

笑いすぎて息ができなくなったのが、雪男は少しむせた。
俺は視線を切らず睨んだままでいたら、どうやら呼吸を整え終えたようで、今は若干ぴくぴくと微かに肩が震えるだけである。

「…雪男」

「ごめんって」

なだめるように腰に手を回され、強くきつく抱き締められた。
1週間分を埋めるように、これまでにないくらいに密着して息が苦しいほどだった。




「次は何してほしいの?」





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リクエストありがとうございました!

素直じゃなくてなかなか甘えられない燐が好きです。

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