※まだ恋人未満
200年以上生きているが今まで本気で誰かを好きになることなんてなかったと思う。
いつだって遊び。
面白い玩具を見つけたら、適当に遊んで飽きたら捨てる。
使い捨てである。
所詮私の恋愛事情なんてそんなものだったのだ
。
そもそも愛だの恋だのよくわからない。
してみたい、と思ったこともあったが私には無理な性質なのだろうと、いつだか諦めた。
人間の感覚でいうと美人と言われるような女に愛を囁かれたことが何度もあった。
私は財力も地位も何もかもを手に入れていたので詰め寄られることなんて自然だったのだ。
しかし、どんな美人の言葉でも私の心は動かなかった。
それなのに、それなのに。
最近の私はどうかしているようだ。
同姓で、しかも弟である何回りも年の離れた奥村燐のことが頭から離れない。
監視対象であるから、何時も見張らなくてはならないから、とかいうわけでもないようだ。
流石に私も大人だ。
きっと、これが恋だということは薄々気が付いていたのだ。
ただ認めたくなかっただけで。
私には本気で誰かを好きになれないんだと諦め、納得してた矢先だったのだ。
まさかこんな簡単に恋が手に入るだなんて考えもしなかった。
まさに恋に落ちるとはこのことで、真っ逆さまに落ちていった。
寄り道なんてものは存在せず、燐目掛けて。
いいでしょうか。
この気持ちを認めてもいいでしょうか。
本当に好きになってもいいでしょうか。
少しだけ怖い。
今まで知らなかった感情がとどまることを知らず溢れ出てくるのだ。
「メフィスト!」
ああ、名前を呼ばれた。
それだけで心臓は鼓動を増す。
ほら、また、溢れだした。
ぱたぱたと小走りで近寄る燐はどこか嬉しそうで、私も思わず口元を緩める。
「早かったですね」
「おぅ、塾が終わってから急いで来たんだからな!」
へらり、と笑う燐の頭を優しく撫でる。
指先の間を通る柔らかい髪の感触がひどく気持ちがいい。
抵抗はされなかったので、構わず撫で続ける。
ふと、撫でる手を止めて募る気持ちを言ってみようと考えた。
「ねぇ、奥村君」
私の様子に不思議に思ったのか視線をこちらに向けてくる。
蒼い瞳がきらきらして綺麗だ。
今この瞬間この瞳に映っているのは私だけだと考えたら、抱き締めずにはいられなくなった。
「ちょ、どうしたんだ?」
突然の抱擁に燐は少し戸惑い、赤面した。
恥ずかしいのか、身体を身じろぐが離すわけがない。
ああ、可愛い。
「少しくらい、好きになってもいいですか?」
いつもおちゃらけているという自覚はあったが、この時は真っ直ぐ真剣に言ったと思う。
思いがけない言葉に燐は焦ったり赤くなったり渋い顔したり、ころころと表情を変えてみせた。
可笑しくて忍び笑いをすると拳が飛んできたので難なく避けてみせれば、きっと睨まられる。
「…ねぇよ」
ぼそりと呟く言葉が聞こえず「何ですか?」と言えば、今度は力強い言葉が返ったきた。
「少しなんかじゃ足りないねぇよ!」
呼吸が止まった気がした。
「フッ…フハハ、ウハハハハ!」
あまりに可笑しくて涙が出そうだ。
どうして私はあんなに怖がっていたのだろうか。
この子は、燐は、私に全力でぶつかってきてくれていたのに。
涙をためてまだ笑っていると、再び拳が飛んできた。
油断していたため、避けきれずもろに拳を食らう。
結構痛い。
「ははは、痛いですよ奥村君」
「お前が悪い」
「ごめんなさい。可笑しかったものでして」
そして、一息つくとおちゃらけた空気を一瞬で切り替え真面目な声音でいう。
「そんなこと言っていいんですか?」
視線が合い、真摯な瞳が互いを貫く。
「おう。全部俺にくれよ」
「一生、逃がしませんよ?」
「上等だ」
また可笑しくて涙がでた。
否、嬉しくて涙がでた。
「ふはは…奥村君、」
「愛してます!」
もう落ちるとこまで落ちてしまったようだ。
もう這い上がることなんてできそうになんか無かった。
110522
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ちゃんとした初メフィ燐です!
物凄く楽しかった。
燐だけがメフィストの余裕を崩せるっていいですよね。
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