※魔王×勇者でアマ燐
企画サイトもしりん提出用。









この扉の先には魔王アマイモンがいる。
見なくてもわかる存在感に俺は少し怖じ気づく。
扉の隙間から漏れ出す、冷たく淀んだ空気が足元にまとわりつく。

こんなとこで挫けるなんて駄目だ。
動かない足を叱咤する。

敵であるはずの魔族の俺を親父はここまで育ててくれたんだ。
アマイモンの首を持って帰らなければ申し訳がたたない。
そしたら、また平和に皆で暮らせるんだ。


「よし!」


気合を入れて扉を両手でめいいっぱい押す。
しかし、身体は正直なようで先ほどから震えが止まらない。
口内はからからに乾いていて、自分の唾がべたついて気持ち悪い。
声を出したからって、ただの空元気にすぎないのだ。




ガコン。

しばらくたって、扉が全て開かれた。



広い室内。
やはり内装は豪華で、アマイモンの趣味なのかごてごてしているものが多い。
一番目をひいたのは玉座。
城の道中で見た今までのどんなものより、装飾が凝っており華やかである。
その玉座に深く身を沈めているにはチュッパチャップスを舐め、ドクロをモチーフにした黒っぽい服で身を包んだ青年だった。



ちゅぱ、ちゅぱ。



チュッパチャップスと唾液の絡まる水音だけが部屋に響く。

勇者である俺が入ってきたのにもかかわらず、未だ舐め続ける様子に馬鹿にされた気がして眉に皺を寄せる。



我慢ならなくなり「おい!」と、ずかずかの部屋の中央まで進み、壁沿いにある玉座に座るアマイモンに声をかける。
チュッパチャップスを舐めるのを止め燐に視線を向ける。

ただそれだけなのに、緊張感からかじとりと嫌な汗が背中を伝った。


「俺は勇者燐だ。お前を殺しにきた」


剣先をむけて不安を振り払うように堂々と言えば、返ってきたのは淡々とした返事だった。

「そうですか」

目を閉じる。



「じゃあ、早く殺し合いはじめようよ」

にやりと唇の端がいやらしく上がり、再び開かれた瞳の奥が怪しく光ったのが伺えた。



「言われなくてもわかってるよ!」

部屋中に響くような大声で言い、剣を構えつつ、走りながらいきよいよく魔王に向かっていく。



カキン。


剣と爪がぶつかり合い火花を散らす。
アマイモンの左足が微かに動くのを感じ、咄嗟に後ろに跳ね退く。次の瞬間に繰り出された左足の蹴りを間一髪でかわす。

そのまま、軽やかなステップでアマイモンの背後をとり、剣を大きく振りかぶる。
それは急反転したアマイモンに弾かれた。
今度は切り裂くように繰り出された爪を剣で受け止めるが、重い攻撃にじりじりと足が後退する。

「……っ」

「これで終わりですか?」

「まだまだだよっ!」

爪を弾き、もう一度距離をとり背後を狙いチャンスを伺った。







どれくらいたったであろうか。

「はぁ、はぁ、はぁ」

自分の呼吸音が煩い。

繰り返される一進一退の攻防につまらなくなったのか突然はぁ、とアマイモンはため息を吐いた。

「つまんない」

そう言うと、アマイモンの姿が消えその場に残像だけが残る。




「え?」


呆然としている間に愛用の剣が手を離れ、気が付いた時には剣は数メートル先の床に深く突き刺さっていた。


何も見えなかった。
今までのはただの茶番だったというのか。
圧倒的力量差に愕然とし、床に膝をつけた。


「嘘だろ…?」


カツカツと前方にいるアマイモンが靴で音を鳴らしながら近付いてくる。



ああ、殺されるんだ。
皆ごめん。
出来なかった。

覚悟をきめ、ぎゅと目を瞑る。



なかなかこない傷みに不思議に思いおそるおそる目を開けば、映るのはじっとこちらを見つめ、突っ立つアマイモンの姿だった。

自分を手にかけず、ただ舐め回すように視線を向けるアマイモンに居心地が悪くなる。


「なんだよ…早く俺を殺せよ!」

「………イヤです」


こいつは俺に同情しているのか?
ひどい屈辱だ。
気付いた途端目頭が熱くなった。こんなやつに、くやしい。


「早く、殺せよ…」


視界が涙で霞み、アマイモンの表情はよく見えなかった。


突然目の前から消えたかと思うと、俺の剣を手に戻ってきた。
片手で剣の刃を握り、粉々に握り潰した。
素手でそんなことをやってのけるなんて尋常ではないと思ったが、それよりもアマイモンの意図がわからず粉々の剣と顔を交互に見やる。


「これで『勇者』燐は死んだことにしませんか?」

「は?」

「だからこれで、此処にいる燐はただの燐になるんです」

「……なんだよそれ!ふざけんな」


なけなしの気力を使い立ち上がり、アマイモンの胸ぐらを掴む。
こんぐらい避けれるのに、なんで避けないんだよ。


「そんなことできない!俺は皆に期待されて…!」



「燐はボクに何をしてほしいんですか?」



「そんなの決まってるだろ!お前が人間に迷惑かけるから!だからやめさせるためにお前を殺しにやってきた!」

「じゃあ、もうやめます」

「は?」

思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
こいつ、今何て言った?

全身から力が抜け、手を離した。
行き場を失った手がうろうろと宙をさまよう。


「あんなのただの暇つぶしでしたから」


平然を言ってのけたアマイモンにかっと頭に血が上る。
身体に力を入れ、再び胸倉を掴もうとしたが届く前に手首を掴まれる。
それでも構わず、逃れようと激しくもがきアマイモンに怒声を浴びせる。

「なんだと!どれだけの人が死んだと思っ「燐がほしい」

アマイモンの力強い声の燐の言葉は断ち切られた。



「ボクのお嫁さんになるなら、もう人間には何もしません」

身体にその言葉がまとわりつき動きが止まる。




「どうですか?」

アマイモンは俺から視線を切らずに尋ねる。
提案をしているようだが、有無を言わさないその態度に俺の答えは一つしかないようだ。


俺が奴の『嫁』になれば人間達は助かる。
『嫁』にならなければ、俺は死に、人間達も死ぬ。

こんなの提案でも交渉でもなんでもない。
これは脅しだ。


ふと、親父や仲間達の顔が浮かぶ。
それはどれも笑顔で幸せそうなものばかり。
俺はこの笑顔を守りたい。
そればらば、こんな身体悪魔にだって差し出してやる。



そもそも俺には選ぶことなんてできないのだから、うだうだ悩む必要なんてなかった。






「勿論だ…お前の嫁になってやるよ!」





これが全ての始まり。




110512
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ごめんなさい、全く魔王×勇者という設定をいかしきれていない感がぷんぷんする。
でもパラレル楽しかったです。
両想いになるまでシリーズものとして連載してみたい。
それに、シリアスなのに嫁っていう単語がKYだよ!浮いてるよ!
「ボクのお嫁さんになってください」って言わせたかった。

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