雪男は燐と一緒に中庭にやってきた。
此処は教室でほとんどの者が昼食をとるため、人気がなく穴場スポットなのである。
風が気持ちよく、辺りは緑溢れとても良い場所なのに、と雪男はぼんやり思った。
「兄さん、此処で食べよう」
「お、おう」
適当な木陰の下に2人で腰をおろす。
いざ食べようと弁当箱の蓋を取る雪男を燐はちらちらと視線を向けていた。
「………兄さん」
「え?あっ、何?」
いきなり顔を向いてきた雪男に驚愕し、あたふたと不自然な動きをして、動揺を隠しきれていない。
「僕が気付かないとでも思ったの?」
「な、なにが」
燐の瞳を覗きこむようにじっと見詰める。
どうしたらいいかわからないのか、燐の視線は宙をさ迷う。
「全部僕の好物だよね」
「っ……!気付いてたのか」
ゆっくりとそう告げれば、嬉しそうな表情が返ってきた。
「ホント兄さん馬鹿だよね」
「なっ…!」
抗議の声が燐から出る前にわしゃわしゃと頭を撫でる。
同じ紺色の髪は細く滑らかで触り心地がいい。
「っ…」
「ホントばかだよ」
貶すような言い方ではなくまるで愛を囁くような声音で言う。
そして、撫でられて強制的に顔を下に向ける燐を見る雪男の瞳は愛するものを見るそれだった。
もう差ほど力強く撫でているわけでもないのに、未だ俯く燐に不思議に思い雪男は顔を覗き込んだ。
「っ…見るなよ…」
ぼそりと拒絶の言葉を吐く燐の顔は、ゆでダコのように真っ赤で、耳までも染まっていた。
「……兄さん」
それを見た雪男は自分までも恥ずかしくなり赤面する。
「なっ、なんで雪男まで赤くなるんだよ!」
「だって兄さんが…!」
そう言っていて2人はより体温が上昇するのを感じた。
恥ずかしい。
「「……………」」
同時に押し黙る。
互いの熱が引くのを小一時間ほど待った。
「俺嬉しかったんだよ」
ぼそりとそう言って燐は雪男の手をとる。
「最近触ってくれねぇし、俺」
寂しかった。
言いながら燐は包むように雪男の手をなでまわす。
先ほど引いたはずの熱が一瞬で戻ってきたのを雪男ははっきりとわかった。
思わず燐を掻き抱けば、おずおずと応えるように背中に腕を回してきた。
込み上げる幸福感に自然と腕に力がこもり、ぎゅうぎゅうと抱き締める。
こんな時が永遠に続けばいいのにと、2人は同じことを考えた。
キーンコーンカーンコーン。
昼休み終了のチャイムが鳴り響く。
雪男ははっとなり、抱き締めていた腕を放す。
抵抗を感じて見やれば、燐が雪男の服の端を掴んでいた。
「え、兄さん?もう授業始まっちゃうよ?」
お弁当を食べる時間は無くなってしまったが、今から急げばギリギリ開始時刻には間に合うだろう。
そう考えていると、
「……もっと」
小さく溢す。
その甘みを帯びた言葉はしっかりと雪男の鼓膜を刺激した。
そんな甘い誘惑に勝てるはずもなく、さぼろうと雪男は思った。
110510
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リクエストありがとうございました!
完結ですー。
この後寮に帰ってお楽しみがいい。←
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