「奥村くーん」

散歩をしていたら後ろで名前をを呼ばれ、振り向くよりも先に肩に衝撃を食らう。
突然の重い塊に倒れそうになるのをこらえ、そのまま甘えるように背後から抱きしめる志摩の股間躊躇せず後ろ蹴りをかます。
確かな手ごたえを感じたのと同時に志摩の悲痛な悲鳴があがった。

ざまぁみろ。


「お前が悪い」

「あっはっはっ…手厳しいわー」

涙目で股間を両手で押さえ、ぴょんぴょん飛び跳ね回る姿は滑稽で笑いが漏れる。
自分がああ蹴られたらどうだろうと想像しかけたが、あまりいいことは想像できそうにないのでやめておく。

「ぷっ…くっくっく…」

「あっ、そこ笑うなや!」

「だってよぉ…!」

痛みではなくあまりの可笑しさに涙が出た。
一呼吸置き涙を指先で拭い、改めて向き合い疑問に思っていたことを尋ねる。

「てか俺になんか用事あったのか?」

「せやせや、これからナンパしに行かへん?今日俺ら休みやしええやろ?」

「あー、でもなぁ…」

渋る様子に志摩は距離を詰め耳打ちしてくる。

「奥村君好みのボインでセクシーな子とかいるかもしれへんよ?」

甘い誘いの言葉に気持ちが揺れ動き、顔がにやりと緩んだ。
志摩は好機と見たのか一気にたたみかける。



「奥村君なら絶対大丈夫し!」
「モテモテ間違いなし!」
「ボインに囲まれてハーレムになっちゃうん!?」



言葉の数々に気分が高ぶりあれもない想像をする。
先ほど渋っていたのが嘘のように目を輝かせている。


「じゃあ、おれ行…」

「あわよくばやれちゃうかもしれないし?」

ぼそりと俺にしか聞こえない声で漏らした言葉に目を見開く。
ガンと頭を殴られたような衝撃が襲い、目の前が真っ白になる。

そして、なんとも言えない感情が俺を支配する。
ふいに浮かぶのは、弟である雪男の顔。

一体なんなんだよ。

「やれちゃうって…セックスのことだよな?」

「そうにきまってるやろ?…何、どないしたん?」


昨夜した行為がフラッシュバックする。
俺が雪男以外の人と、する。

自分の好みの巨乳の女の子を想像したのに全く興奮することができない、そればかりか全身がさあと、冷めていく。
好きなはずなのにどうして。
想像の先に見えたのは嫌悪でしかなかった。
相手は雪男以外考えられなかった。


心なしか眉間を寄せ唸る俺に志摩は心配そうに見つめてくる。
そんな志摩の相手をする余裕はなく黙殺を通す。


「え…なんや…もしかして奥村君すでに恋人でもおったの?」

「そんなのじゃねぇって。ただ、なんか罪悪感っての?もやもやーってすんだよ」

「いや、それってその相手の子好きだからやないの?」

「え…そうなのか?」


「奥村君セフレ持ちとかやるんやなぁ」と言う呟きはもはや耳には入っておらず、すでに自分の世界に浸っていた。


『好き』という思いがけない情報が錯綜する。
俺が?雪男を?好き?

整理しようとすればするほどわけがわからなくなってくる。
頭がパンクしそうだ。



何も考えられなくなり、「ごめん、寮に戻る」と告げて行った。
きっと志摩は戸惑ったと思うが、構わず寮に向かう。

奥村君と、名前を呼ばれた気がしたが、聞こえないフリをして心の中で謝罪した。








110506
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雪男がでてこない!
もうちょい先になっちゃうかな…

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