両手で思い切り布巾を絞り、それを浅い息を繰り返す燐の額に乗せた。
薬をすでに飲ませてあるし、一段落したことを指折り数えて確認すると雪男は息をひとつ吐いた。
「迷惑かけて悪いな…」
ベットの上に横たわる燐は頭だけを此方に向けた。
「別にいいって、それより大丈夫そう?」
「多分な」
少し目を細めてからから笑った。全然大丈夫そうには見えないのは明らかであるが、彼の強がりはわかっているので触れないでおいた。
燐が濡れ鼠になって寮に帰ってきたのは昨夜のことだった。
天気予報が午後雨だと忠告したが、平気だろうとたかをくくって傘を持たずに出掛けたからである。結果見事にどしゃ降り。
そんな彼に呆れつつもすぐに風呂に入らせ、温かくして寝かせたのだが疲れが溜まってたからだろうか。
朝目覚めたら39℃の熱だったのである。
慌てて支度をしたりなんなりして今に至るわけだが―――最近ごたごたが多かったからなあ。
悪魔は人よりは頑丈にできているが、精神的なストレスがたかったのだ。
「昔は違ったのになあ」
「何いってんのさ。今も昔もお世話してるのは僕でしょ」
「ちげーよ!幼稚園の頃とかだよ…」
たしかに幼稚園の頃は弱虫で泣き虫で身体も弱かった。
よくワルガキに泣かされては兄が助けにきてくれたっけ。
雪男は俺が守る、だとか言っていたなと懐かしい思いでに思い馳せるとなぜだか嬉しくて忍び笑いをした。
「……おい、何笑ってるんだよ」
「なんでもないよ」
昔はたしかに守られていたが、今は違うんだ。
兄を守る力を手に入れた。
雪男はそれがとてつもなく嬉しく感じたのだ。
「大人しく守られててよ」
息でかき消えてしまいそうなくらい小さく呟いた声はもちろん燐には届くことはなかった。
それに気がつけば彼は夢世界に旅立っていた。
すやすやと眠る顔は昔と変わらない幼子のようだった。
決して"大人しく"守られるなんてことはありえないし、似合わないのは重々承知しているが燐が自分の保護対象であるのは変わらなかった。
(おやすみ、お姫様)
そんなこと言ったら怒られそうだなと思いつつも雪男は慈愛に満ちた目でそう言った。
「おやすみ、お姫様」
120122
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甘い雰囲気を目指したはずだった……
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