月明かりだけが照らす真っ暗な世界で燐は一人そこに佇んでいた。
眼下に見下ろせる町並みがぼんやりと照らされる様はいやに幻想的で、これなら悪魔が出てきてもおかしくはないな、と燐は思った。


「そういえば、今日はハロウィンか」


コンクリートの地面はひんやりとして気持ちよい。
長い間そこに座っていたので、少し肌寒く感じたがもう少しだけここにいたいと思った。
それは誰かを待っているのかのようにも見えた。



かつん、と無機質な地面を踵で蹴ったような音が辺りに響きわたった。
もちろん自分のものではない。
首を左右に動かし見回したが誰の気配もしなかった。
しかし、燐は何もかもわかっていると言うかのように、何もないはずの空間に言葉を投げた。


「メフィスト、いるんだろ」


かつん。
また一つ靴音が響く。



瞬きをした次の瞬間には、何もなかった場所にはメフィストがそこにいた。

「なんだよ、その格好」

「似合っていませんか?自信あったんですがねぇ」

そうぼやくメフィストは自分の身体を見た。
黒いマントを羽織り、手にはカボチャのランタン。
口元にはするどい牙が覗いていた。

「逆だよ、逆」

メフィストの病的なまでに青白い肌には、黒いマントがよく似合っていた。
本物の吸血鬼のようだ。

「ふふ、気に入っていただけたなら結構です。奥村君は仮装しないんですか?」

「そういう気分じゃなかったんだ」

しえみや志摩にハロウィン・パーティーするから一緒に仮装しようと誘われていたことを思い出した。
イベント事は好きだし、普段なら即OKしたはずなのに断ってしまったのは、目の前にいる吸血鬼のせいなのだろうなと、一人納得した。


誰よりもメフィストと過ごしたかったし、一人でいたらきっと現れると思ったから。
思考を現実に戻して顔を合わせれば、にやにやと唇の端を吊り上げて笑っていた。
なんだか癪で、燐は少し顔を歪めた。

「知ってます?10月31日の夜は精霊や魔女、悪魔が出てくると信じられていたんですよ」

「その悪魔ってのはお前のことか?」

「そうかもしれませんね」

顔に張り付いた笑みは変わらなかった。

「じゃあ、魔除けの焚き火を焚かなきゃな!」

ごう、と燐の身体から青い炎が噴出した。
悪魔をも燃やし尽くす炎を見ても、メフィストは怖気づく様子はなく、むしろより一層笑みを深くした。


(攻撃する気なんてないんでしょうに)


メフィストは迷わず燐との距離を詰めた。
手を伸ばして頬に触れる。
吹き出る炎にも触れているはずなのに熱くは感じなかった。



「…悪魔ってほんとずりぃ」


燐はぽつり、と溢した。




「それは、」


こっちのほうだ。喉まででかかったが寸前で堪えた。
別に言ったところで何も変わらない。

互いが魅入られているのならいいじゃないか。



(どうやら悪魔に魅入られてしまったようだ)



111030
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HappyHalloween!

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