「Trick or treat!」

燐は開口一番に言い放った。
対して雪男は扉を開いたままの状態で固まっていた。
それもそのはず、燐の格好は白いシーツをかぶり仮装しているからだ。
シーツにおばけの顔の形をくりぬいたもので、雪男からは顔を見ることはできないだろう。
そして自分も視界が狭いので今にも転びそうでもある。

「…昨夜から何かごそごそやってると思ったら、これだったの?」

「おう!どうだ、いい感じだろ〜」


自慢げに胸を張ると、くるりと回って見せた。
15にもなってハロウィンで仮装してはしゃぐ燐に雪男は少々呆れたのか、ひとつ溜息を吐いた。


「それで?お菓子をくれなきゃイタズラするぞって?」

「話がわかるじゃないか!お菓子くれ!」

ずい、っとシーツに包まれた手を差し出した。
雪男は眉を寄せて少し考えた後、親指で台所を指す。

「冷蔵庫にケーキあるけど食べる?」

「…それは俺が作ったやつじゃんか」


ハロウィン用にとカボチャを使った創作ケーキで、後で雪男と一緒に食べようと昨夜作っておいたものだった。
驚かそうと思って冷蔵庫の奥に隠しておいてあったはずなのに、すでにバレてしまっているので面白みが半減したと燐は少し肩を落とした。



「兄さん、僕はハロウィンなんかじゃなくてもお菓子あげるよ?」


瞬間、温かい感触に包まれた。
雪男の腕の中だと理解した時には、逃げられないくらいぎゅうぎゅうと抱きすくめられていた。
苦しいくらいなはずなのに、何故かひどく心地よかった。



「砂糖みたいに甘く、どろどろになるまで甘やかしてあげる」


低いトーンで囁く雪男の声は身体の奥まで響き、熱いものが広がる。
まるで耳から犯されるようだった。


顔がどうしようもなく熱い。
シーツで顔が隠れていて良かったと心から思った。



「ね、顔見せてよ」


真顔で見詰められて返す言葉もなかった。
その瞳で見詰められて何もかも見透かされている気がして、嫌なはずなのに気がつけば自信を覆っていたシーツは床にばさりと落ちていた。


「…あんまし見んなよ」

「だってあまりにも可愛いから」

くつくつと肩を揺らしながら笑う姿が目に入り、かっと腹を立てた燐は口を大きく開いた。



「だってお前が―――」





続くであろう言葉を遮るように、雪男は燐の唇を奪った。
悪態をつき始めた彼を抑えるにはこれが一番の方法であることを雪男は知っている。
現に今も顔をさらに赤くさせた彼がすっぽりと自分の腕の中に納まっていた。


来年は猫耳魔女の仮装でもしてもらおうか、とぼんやりと雪男は考えた。




1101030
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HappyHalloween!

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