※勝燐要素有りです。雪燐←勝呂?
その日勝呂竜士は感慨にふけっていた。
最近さほど意識せずとも、何故か奥村燐を目で追ってしまうのだ。
たしかに授業中の燐は見ていて飽きない。
居眠りしないように、こっくりこっくり舟をこぐ姿は、男に可愛らしいなんて形容詞はあてはまらないはずなのに自分の中でしっくりくる。
ああ、これだ、と。
この症状はもしかしなくても恋なのではないかと自分に問いかける。
しかし、こんなの審議するまでもない。
却下だ却下。
そんなことは認めない。
机に影がかかり、ふと顔を上げれば目の前には渦中の人である燐が立っていた。
暢気でいいのと、思わずため息をついてしまう。
「どうした坊?」
「何度言ったらわかるんや!勝呂や!」
くくっっと笑い流される。
声を荒げてしまったが、愛称で呼ばれることは頬がほんのりと色付くくらいは嬉しく感じる。
「わーったて?なんだ落ち込んでるのか?」
「はぁ?いや、そうではないんや。いやでもなぁ…」
主におまえのせいだよ!
つい余計なことまで言いそうになった。
「どっちだよ!まぁ、いいや。」
一度くるりと回転すると鼻にかけた様子で、へへんと仁王立ちして言う。
「元気がでるおまじないしてやるよ!」
「おまじない?」
「そうそう。やるからちょっと目つぶれ」
少々納得がいかない所もあるが、自信満々なようなのでおとなしく指示に従い目を瞑る。
さて、何をしてくれるのかと考えていると額に少し湿った柔らかい感触を認識する。
柔らかい感触……?
「は?」
疑問に重い眉をよせて二、三度瞬きして見れば依然鼻にかけにやにやした燐の顔が広がっていた。
今のは明らかにキスだよな?
「どうだ!元気でたか?」
元気って意味がわからない。
こいつついに頭おかしくなったか。
いや、元からなのか。
「なんだ?坊も雪男とかメフィストみたいに口がいいのか?」
まぁ、別にいいけどよ、と漏らす燐に燐自身の危険感じる。
別に好きだからとかそういうんじゃなくてライバルとして心配だから言うだけだ。
「ちょいまてや。どういうことなんや?」
「どういうって、キスすると元気がでるんじゃないのか?」
きょとんとした様子から常識から外れていることを理解していないらしい。
「好きな奴にされたら元気でるかもしれんが…」
「え!嘘だったのか…雪男は昔からキスしてくれると元気でるからって
いっつもねだってたからてっきり…」
「おい…それは明らかに…」
騙されていることを告げようとした瞬間、突然背筋が寒くなり何事だと振り向けば燐の弟である奥村雪男がいらっしゃいました。
いつから居たのかはわからなかったが、探るまでもなく不機嫌なのは明らかである。
無言の圧力に顔色は青ざめ、身体から冷や汗が流れる。
「兄さん、勝呂君と話があるから先に
部屋に戻っててくれる?」
「えー、今日買い物行くって約束してたじゃん」
不機嫌なのに気付かないのか、それとも俺だけにこの冷たいオーラを出しているのかもしれないが気にも留めず会話を続ける奥村兄弟。
「ごめんごめん、埋め合わせするからさ」
「しょうがねぇなぁ…」
ぜったいだぞーと、扉をくぐって出て行ってしまった。
一緒に出て行きたかったが許してはくれないようである。
扉に吸い込まれていくように消えていく燐を
見届けると鋭い視線が俺を刺す。
「ねぇ、勝呂君?説明してくれるかい?」
眼鏡の縁がキラリと反射しまぶしいくらいだ。
「いや…そのぉ…」
むしろ俺は被害者なんです。
曖昧に言葉を濁して黙ることしかできなかった。
ズキズキ。
偏頭痛だろうか。
ひどく頭が痛かった。
110503
.........................
被害者勝呂。笑
メフィストは燐のことが好きなので、あえて何もいわず何度も唇を奪っているとかいういらない設定があったりします。
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